ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

特集:生物研究における結晶学-生命現象の可視化への挑戦-日本結晶学会誌56,247-252(2014)小角散乱と結晶構造の複合構造解析横浜市立大学大学院生命医科学研究科小田隆静岡県立大学薬学部橋本博Takashi ODA and Hiroshi HASHIMOTO: Integrated Structural Biology in Combinationwith SAXS Analysis for Biological MacromoleculesSmall angle X-ray scattering(SAXS)analysis is a facile and useful method to determinestructures of biological macromolecules in solution. Although SAXS analysis generallyprovides significant information of molecular shape at low resolution, in combination withother biophysical techniques such as X-ray crystallography, SAXS analysis exhibits tremendouspower for structural studies of biological macromolecules. In this review, we described ourrecent studies of SAXS analysis for biological macromolecules(BioSAXS)and future perspectivefor integrated structural biology using BioSAXS.1.はじめに20世紀の終わりから21世紀初頭,ヒトゲノムの解読に代表されるゲノムプロジェクトの成熟とともに構造ゲノムプロジェクトが興隆し,構造生物学の技術基盤が急速に整備された.その結果,タンパク質生産,データ測定,解析プログラムなどが高度化され, 10年前と比較すると, X線結晶構造解析やNMRによるタンパク質の立体構造解析の効率は飛躍的に向上したと言える.しかしながら,現在においてもX線結晶構造解析では結晶化, NMRでは分子量の制限などが解析の妨げとなっている.近年,構造生物学が対象とする生体超分子はより高難度化し,それらはマルチドメイン,マルチサブユニットから構成されているものも少なくない.それらの構造と機能を明らかにするためには,原子レベルの精緻な構造情報,例えばドメインやサブユニットごとの結晶構造やNMR構造に加えて,低分解能ではあるが分子レベルの巨視的な構造情報を組み合わせた複合的構造解析が有用である.また,このようなタンパク質は一般に組換えタンパク質の生産や結晶化が困難な場合が多い.それら高難度な解析対象であっても,微量精製できた試料を用いて,外形や動的な構造情報を得ることができれば機能を知る上でおおいに役立つ.このような背景から,生体超分子を対象としたX線小角散乱(SAXS)の利用がますます高まっている. SAXSはX線結晶構造解析のような分子の精緻な構造を決定できる手法ではないが,結晶化や特別な標識を必要とせず,緩衝液の種類や含まれる成分に関する制限も少ないため,精製したタンパク質をそのまま測定に用いることができる.すなわ日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)ち, SAXS実験では,タンパク質が機能している生理的環境に近い条件はもちろんのこと,溶媒条件をさまざまに変化させることが可能である.SAXS解析の原理の詳細な説明については優れた教科書や総説があるため1)-3)ここではその概要のみ述べる.タンパク質からの角度依存的な散乱I(q)(q=4πsinθ/λ,λ:X線の波長, 2θ:散乱角)はタンパク質溶液からの散乱と溶媒からの散乱の差として観測される.散乱強度の極低角領域はGuinier近似(Ln[I(q)]=Ln[I(0)]-R g2q 2 /3)により直線近似されその傾きから散乱体の慣性半径R gが,縦軸との交点から原点散乱強度I(0)が求まる.I(0)を重量濃度C(mg/mL)で割ったI(0)/Cが分子量に比例するため,分子量既知で濃度のわかっている標準タンパク質(BSAなど)のI(0)/Cと比較することで散乱体の分子量を見積もることができる.また,次式で与えられる距離分布関数P(r)は散乱強度の逆フーリエ変換によって求まり,タンパク質粒子の最大長D maxを見積もることができる.また,P(r)からは分子の形状の情報も得ることができる.1∞P()= r∫I( q)( qr) sin( qr)dqπ2 2 0(1)プログラムATSASはSvergun博士らによって開発された統合ソフトウエアで,上記のような一連の解析をプログラムPRIMUSによるGUIを用いてパソコン上で簡便に行うことができる. 4)また構造解析では,従来は散乱体を球や楕円体などの単純な形で近似してきたが,近年はSvergun博士らが開発したプログラムDAMMIN 5)に代表されるように,タンパク質をビーズモデルで表現する.DAMMINは先に求めたD maxを直径とする球体にビーズを247