ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

溝端栄一,南後恵理子,菅原道泰,鈴木守,岩田想結果も得られている.2.4高粘度物質を用いた水溶性タンパク質のSFX実験水溶性タンパク質のSFX実験では,測定で必要とされるタンパク質量の低減に加えて,微結晶試料に含まれる試薬の組成,濃度,粘度に関係なくインジェクターから安定に流すことができる手法の確立が課題であった. LCPインジェクターはLCP法により得られた膜タンパク質結晶のために開発された装置であるが,タンパク質消費量が非常に少ない.われわれはこの点に着目し,タンパク質微結晶のキャリアー媒体としてLCPと同様の高い粘性をもつ物質をタンパク質微結晶と混合し,これをLCPインジェクターに充填して測定する方法の開発を進めている.現在, SFXでの使用に最適な高粘度物質(ポリマー,樹脂,ゲルなど)のスクリーニングを行っている.高粘度物質に必要とされる条件としては,1タンパク質微結晶と混合しても結晶性にダメージを与えない物質であること, 2高濃度の塩や高粘度の試薬を含む微結晶溶液と混合しても, LCPインジェクターから安定なストリームを形成できる物質であること, 3回折イメージに与える高粘度物質由来のバックグランドノイズが低いこと, 4高粘度物質内で微結晶が凝集せず均一に分散し,ノズルの目詰まりを起こさないこと,などが望まれる.われわれは,これら条件を部分的に満たすいくつかの高粘度物質を見つけており,それらを使用することで数種類の水溶性タンパク質の結晶からの回折データセットの収集に成功している(図4).いずれも,タンパク質の消費量は1 mg程度であり,ジェットインジェクターや循環インジェクターよりはるかに少量化に成功した.高粘度物質の利用は,水溶性タンパク質のSFXにおける汎用的なサンプル供給法として,今後期待できそうである.図4SACLAにおけるSFX実験.(SFX experiment atSACLA.)(a)水溶性タンパク質の10μmサイズの微結晶.(b)高粘度物質と混合した微結晶試料をLCPインジェクターに装填して測定した回折像.エッジは2 A分解能.SFX実験において効率良くデータ収集するには,用いる試料の結晶密度が重要である.密度が低すぎるとX線が結晶にヒットする確率が下がってしまい,構造解析に必要なデータ収集に長時間のビームタイムを要する.一方,高い結晶密度では1ショットのX線照射で同時に複数の結晶からの反射が検出されるため,指数付けの妨げとなる.われわれは,内径100μm程度のノズルを使用した場合,効率よくデータ収集するための最適な結晶密度は10 7個/mLであることを実験的に確認している.今後の課題としては,バックグランドノイズのさらなる低減がある.内径50μm以下のノズルを用いて,押し出されるサンプルの径を細くする予定である.ノズル径を小さくすることはタンパク質消費量の低減にも繋がる反面,結晶が詰まりやすくなる.用いる結晶のサイズ,形に適したノズル径の選択基準が必要である.また,対称性の低い結晶,さらに重原子含有結晶を利用した位相決定のための回折データ収集には,長時間安定したサンプルの供給が必要とされる.現在取り組んでいる高粘度物質を利用したSFX手法は,ターゲットとしてタンパク質結晶のみを限定するものではなく,有機,無機粒子を用いた幅広い研究分野におけるSFX実験にも応用できると考えている.2.5ポンプ・プローブ法などを適用した動的構造解析光合成や光センサーにかかわるタンパク質の動的構造解析が注目されている.しかし,光依存的に超高速で起こる反応の理解には,フェムトからピコ秒の時間分解能が必要であり,従来のシンクロトロン放射光の技術では解析が不可能であった. XFELの極短パルスの特性を活用することで,化学反応や各種相転移における原子と電子のダイナミクスをフェムト秒スケールで追跡することが可能となる. XFELとフェムト秒同期光学レーザーを組み合わせれば,フェムトからピコ秒領域のポンプ・プローブ計測を実現し,光に反応するタンパク質結晶中の化学反応を,既存技術の1000倍以上高速のコマ送りで構造観察できる(図1). SACLAでは, DAPHNISを利用して微結晶試料からのフェムト秒ポンプ・プローブ回折イメージを計測するための開発が行われている. LCLSからは最近,低分解能(5~5.5 A)ではあるが,光化学系IIの時分割構造が報告され,注目されている. 6)このほか, XFELとストップト・フロー技術を組み合わせることで,酵素微結晶と基質を速やかに混合するシステムを構築し,酵素反応の動的構造解析を常温で行うことも期待できる.これにより,タンパク質の働く様子の一瞬一瞬を正確に捉え,酵素が働く仕組みの全容を知ることができよう.2.6 SFXデータの計算処理SACLAにおけるデータ処理法を紹介する(図5).イメージデータは通常30 Hz(1秒間に30発のパルス照射)で収集される. 1時間の測定で約10万枚の回折イメージが244日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)