ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

X線自由電子レーザーを用いたタンパク質の構造解析図2図3汎用実験システムDAPHNISの外観.(Photographof DAPHNIS.)SFX実験に用いる各種インジェクター.(Injectorsfor SFX experiment.)(a)ジェットインジェクター.(b)循環インジェクター.(c)LCPインジェクター.(d)LCPストリームの流れる様子.料チャンバー, XFELと試料の位置を調整するためのカメラ, XFELの強いビームかつ高いフレームレートに適しているSWD-MPCCD検出器4)などの装置群から構成されているコンパクトなシステムである.試料チャンバー内はヘリウム置換されており,測定時には高い湿度(約80%)が保たれるように調整されている.サンプルホルダーの温度制御も可能であり,結晶化温度と同一にすることで,結晶試料の状態を良好に保つことができる.SFXでは微結晶を連続的に安定して送り出すインジェクターと呼ばれる装置が必要である.現在SACLAでは,次の3種類のインジェクターが利用できる(図3).1ジェットインジェクター:主にサンプルホルダー,HPLC用送液ポンプ,ガラス製キャピラリーのノズルからなる.微結晶のサイズに応じて50~150μmの間で,異なる内径のノズルを選択できる. 5)サンプルホルダーに3~20 mLの結晶懸濁液を装填し, HPLC用送液ポンプによる水圧でサンプル送液を行う.ノズルの先端から出る液体ストリームの幅は,その周りを流れるヘリウムガスによって細く絞られ,微結晶溶液のストリームが水鉄砲のように飛び出てくる.ストリームが比較的細いため,バックグラウンドの反射が少ない利点がある.一方,細いストリームにガスが当たるため,微結晶溶液が一部乾燥し,塩の結晶の析出を促進してしまう.析出した塩結晶はストリ日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)ームの軌道を曲げてXFELビームを当たらなくするため,高濃度の塩を含む試料での測定は注意が必要である.また,液体ストリームが途切れないよう,比較的速い流速(数百μL/min)が必要なため,効率的に反射イメージを収集してデータをコンプリートするには,結晶密度を高く(10 8 crystals/mL程度)した上,数十~数百mg(20~200mL)もの試料の消費を要する.内径の細いノズルに高密度の試料を用いると,結晶が詰まりやすくなるので,事前に微結晶のサイズや密度を最適化しておくことが必要である.2循環インジェクター:ジェットインジェクターでは,1回XFELの軌道を通過するときにヒットする結晶は全体のわずか数%であり,大部分の微結晶は未照射のまま無駄に廃棄されてしまう.そこで,微結晶溶液をペリスタポンプで送液し,ノズルから液体ストリームを噴出させ,XFELパルスの軌道を通過させた後,試料を受け皿で回収し,再度ノズルへと輸送するリサイクル方式を開発した.このインジェクターは,ジェットインジェクターの10分の1の試料で測定でき,試料の消費を減らすことができる.また,ノズルの内径が200μmと太く,結晶がつまりにくいという利点がある.しかし,繰り返しペリスタポンプで送液されるうちに,もろい結晶の場合,押しつぶされてダメージを受ける場合のあることや,ストリームの幅が広いためバックグラウンドが高めに出るという短所がある.また,サンプルが何度もXFELビームを通過する間に,散乱光やプラズマの発生により,結晶中に光感受性の高い化学構造がある場合,それが徐々に変化する可能性がある.3 LCPインジェクター:LCP法で生成した微結晶と脂質をともに押し出す方法である. LCPは粘性が高いため,0.1~0.5μL/minの低流速でゆっくり押し出しても液滴にならずに,棒状の連続したストリームが得られる. 1秒当たりのパルス数に応じた低速度で送液することにより,結晶を無駄にせずごく少量のサンプルで効率的にデータを収集することができる.当初開発した仕組みはシンプルで,ハミルトンシリンジにLCP結晶試料を装填し,プランジャーを機械制御でゆっくり押して, 100~160μm径のニードルから細く試料を流す方式である.ジェットインジェクターと異なり,高粘度のLCP中では結晶同士が凝集しにくいので,ストリーム出口付近で結晶がつまることが少なく,周囲に拡散もしにくいことから,重原子や毒劇物を含んでいる試料を管理しやすい長所がある.現在,さらに安定した送液を可能とするため,改良型の装置開発を行っている.このインジェクターは,現時点でもっともスケールダウンが可能な方式で,通常1 mg程度の微結晶を含む30~60μLのLCPサンプルでデータをコンプリートできる.現在,さまざまな膜タンパク質結晶の測定検討を行っており,数種類の結晶で2~3 A分解能の反射を示す243