ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

ページ
29/116

このページは 日本結晶学会誌Vol56No4 の電子ブックに掲載されている29ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No4

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No4

特集:生物研究における結晶学-生命現象の可視化への挑戦-日本結晶学会誌56,241-246(2014)X線自由電子レーザーを用いたタンパク質の構造解析大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻溝端栄一理化学研究所放射光科学総合研究センター南後恵理子,菅原道泰大阪大学蛋白質研究所鈴木守理化学研究所放射光科学総合研究センター,京都大学大学院医学研究科,インペリアルカレッジロンドン生命科学科,ダイヤモンド放射光実験施設岩田想Eiichi MIZOHATA, Eriko NANGO, Michihiro SUGAHARA, Mamoru SUZUKI andSo IWATA: Protein Structure Analyses Using X-ray Free-Electron LasersX-ray free-electron laser(XFEL)source produces X-ray pulses more than a billion timesbrighter than the most powerful synchrotron source. The extremely intense X-ray pulses emergingfrom XFEL source, along with the appearance of serial femtosecond X-ray crystallography(SFX)technique enabled us to reveal radiation damage-free protein structures from nano-/micro-crystals. Current state of protein structure analyses using XFEL is described.1.SACLAとXFELの特徴2012年に供用が開始されたSACLA(SPring-8 AngstromCompact free-electron LAser)は,米国スタンフォードのLCLS(Linac Coherent Light Source)に次いで,世界で2番目に設立されたX線自由電子レーザー(XFEL)施設である. SACLAには8 GeVの線形加速器に,約100 mのアンジュレータが接続されている.加速された電子ビームは,振り分け電磁石によって5本のラインに分けられる.現在, 3本のラインにアンジュレータが設置され,うち2つのビームラインが稼働中で, 1本は来年供用開始が予定されている.このほかに,隣接するシンクロトロン放射光施設SPring-8の蓄積リングに, SACLAの高品質電子ビームを導くラインが整備されている.これにより,将来SPring-8は,より高い輝度の放射光が使えるよう高度化される計画である.また, SACLAのXFELとSPring-8の放射光の相互利用可能な施設が供用されている.XFELは,超高輝度,極短パルス,高空間コヒーレンスという特徴を有する新世代の放射光である. SACLAは,SPring-8で得られる光に比較して, 10億倍もの輝度, 1000分の1以下のパルス幅,ほぼ完全な空間コヒーレンスをもつ光を生み出す. X線による構造解析では,私たちが日頃物体を目で見るときと同様,光が明るいほど小さいものを高解像度で観察できる. XFELは非常に輝度が高いため,1パルスを照射しただけで,試料は崩壊してしまう.しかし, 10フェムト秒(fs)以下の極短パルスを用いると,原子日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)位置の変異やラジカル反応により化学結合が変化・切断される速度よりもX線の散乱過程のほうが速くなるため,試料が壊れるよりも早く試料の情報を記録して解析できる.こうしたXFELの特性を利用して,タンパク質の結晶試料を用いたX線構造解析や,非結晶試料からのコヒーレントX線回折イメージングの研究が盛んに進められている.2.SFXによる微結晶を用いた構造解析2.1 SFXの特徴XFELを利用することで,微結晶(ナノ~ミクロンサイズ)試料でタンパク質の構造解析を可能にする新しい技術,連続フェムト秒微結晶解析法(Serial FemtosecondX-ray crystallography:SFX)が考案された(図1). 1)これは,多数の微結晶を含む溶液をインジェクターから極細の液体ストリームとして噴出し,そこにXFELパルスを照射して,多数の異なる配向の微結晶からの回折データを連続測定するものである. SFXを利用する構造解析のメリットとして次のことが挙げられる.1放射線損傷を無視できる構造解析が可能となる:特に,光感受性の強い不安定な化学構造を観察するのに威力を発揮する.無損傷の構造解析を実現するには10 fsといった極短パルスを用いるのが望ましい. 1パルスの継続時間を5 fsから40 fsに増やすと,結晶への照射光量は増えて回折強度も上がる反面,試料の損傷が見られてくる.2常温で生理条件に近い構造観察ができる:通常の放241