ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

藤橋雅宏図4野生型ODCaseとUMPの1.03 A分解能構造.(The structure of wild-type ODCase in complex with UMP at1.03 A resolution.)(A)Lys72のダブルコンフォメーション.左,中,右のパネルの電子密度はそれぞれ, Aコンフォメーション, AB両コンフォメーション, BコンフォメーションのLys72を除いて計算したF o-F c omit電子密度(すべて3.5σ).数値は原子間距離(A).(B)UMPピリミジン環の歪み.矢印で示したC6原子はわずかにピリミジン環平面から外れている.電子密度は基質全体のF o-F c omit電子密度(14σ).ゆっくり進むことを利用して,反応が進行する様子を結晶構造解析で追いかけた. 8)図3に示すように,ピリミジン環のC6に結合したCN基は, OH基とは異なり,その環平面から大きく折れ曲がった構造をしていた.この構造は, ODCaseの反応触媒機構に基質の歪みが関係していることを示唆する.ODCaseによる基質C6位の歪みは, 6-CN-UMPに限らない多数の基質についても見られる. 9)-11)また, ODCaseは酵素基質複合体の歪みを反応に利用するとの提案も,昔からなされている. 11),12)しかしながらこの機構は,基質OMPのK M(~2μM)13)が,歪められる置換基をもたない生成物UMPのK i(~400μM)13)よりも著しく小さいことから,しばしば強い反論を受けてきた. 14),15)もしOMPのカルボキシル基がODCaseによって歪められるのであれば,歪めるために必要なエネルギーのために, OMPはUMPよりも弱く結合すると考えられる.そこで,この矛盾について詳しい解析を試みた.それまでの研究で,野生型ODCaseとUMP複合体の構造は,分解能1.5 Aで2つの構造が独立に決定されていた. 11),12)われわれはこれらよりも遙かに高い分解能(1.03 A)での構造解析を行った. 16)それまでの解析では,ODCaseの反応中心にあるLys72は単一コンフォメーションとしてモデリングされていたが,われわれの解析により,この残基はダブルコンフォメーションをしていることが明らかになった(図4A).このうちのBコンフォメーションでは, Lys72がUMPのC6炭素原子により外に押し出されているような印象を受けた.さらに電子密度を詳しく観察すると, C6炭素原子は,ピリミジン環平面より0.1 A程度外れて存在した(図4B).ほかの原子はすべて平面から0.015 A以内のずれに収まることから,このずれは有意に大きい.そこでLys72はUMPの結合を妨害するのではないかと考え,野生型・K72A変異体それぞれに対するUMPの結合定数を決定した. 16)通常,基質アナログの結合定数は,反応の阻害定数(Ki)により求められるが, K72A変異体は反応をほとんど触媒しないので,阻害定数を求めるアッセイ図5ODCaseの反応シミュレーション.(The simulationof ODCase reaction.)(A)酵素基質複合体中のOMPの構造.脱炭酸されるカルボキシル基(矢印)はピリミジン環平面から少し外れている.(B)脱炭酸反応のそれぞれの状態に対応する, OMPの内部エネルギー変化.ができない.そこで,表面プラズモン共鳴法を用いることにより, UMPは野生型ODCaseとK D=約300μMで,K72A変異体とはK D=約4 nMで結合することを示した.その差は10 5倍に及ぶことから, Lys72はUMPの結合を確かに阻害していることがわかった. OMPとの複合体では,Lys72は負の電荷をもつカルボキシル基と相互作用するなどUMP複合体とは異なるコンフォメーションをしていると考えられる.これらのことから,基質OMPが生成物UMPよりも酵素に強く結合するという事実は,基質の歪みを利用した反応機構に対する反論としては成立しないことを示した.続いて, ODCaseの反応触媒機構において,基質の歪みがどれぐらい貢献しているのかをシミュレーションで評価した. 17)その結果,図5Aに示すように,基質OMPのカルボキシル基は酵素中で歪んでいることが示された.この歪んだ基質の構造を,溶液中での緩和された(歪んでいな238日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)