ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

結晶構造を基にした酵素反応機構の解析~オロチジン一リン酸脱炭酸酵素を題材に~部位はサブユニットの界面付近に存在し,特徴的なLys42-Asp70-Lys72-Asp75(残基番号はMethanothermobacterthermoautotrophicus由来酵素のもの)のネットワーク構造が形成されている(図1B).これらの残基のいずれをAlaに置換した場合にも,酵素活性が10 5分の1以下に低下する. 3)基質オロチジン一リン酸(OMP)は,脱炭酸されるカルボキシル基をAsp70の方向に向けて結合することが知られている(図1B).さまざまな反応機構がいくつもの研究グループから提案され,盛んな議論が続けられている. 4)2.2求電子様と求核様両方の反応の触媒この酵素の反応阻害剤を検索する過程で合成された, 6-CN-UMP(図2A)について, ODCaseとの複合体結晶を作製し, 1.45 A分解能のX線回折データセットを取得した. 5)このデータを基に得た基質ピリミジン環の電子密度を図2B(左)に示す. CN基のうち,特にNに対応する電子密度が不足していることがわかる.また, CN基の位置に相当する電子密度の強度は,ピリミジン環O2やO4に対応する電子密度強度にほぼ等しい(図2BおよびS1図*).ここから, 6-CN-UMPが6-OH-UMPに変換されるという仮説が示唆される.実際, 6-OH-UMPは図2B(右)に示すように,基質に対応する電子密度にちょうどあてはまる.この6-CN-UMPの6-OH-UMPへの変換反応を証明するためにESI-MSによる分析を行い,酵素非結合型,反応前の基質複合体,反応後の複合体の分子量としてそれぞれ27345, 27694, 27686を得た. 5)ここから計算できる基質の分子量は反応前で349,反応後で341となるが,これらの値は6-CN-UMPと6-OH-UMPの分子量(それぞれ349と340)にほぼ一致する.また酵素学的分析によってもこの変換反応を確認し,反応速度が日単位のゆっくりしたものであることも示した. 5),6)OMPをUMPに変換する脱炭酸反応(図1A)は,求電子置換様の反応である.これに対し, 6-CN-UMPを6-OH-UMPに変換する反応(図2A, CN基がOH基で置換される)は,求核置換様の反応である.結晶構造解析から, 2つの反応は同一の活性部位で進行すると考えられる.しかしながら,求電子置換様と求核置換様の反応では,中間体や遷移状態の電荷が逆になるので,それら両方を安定化する機構は非常に考えにくい.そこで, 6-CN-UMPと同様に,ほかの求核攻撃を受けやすい置換基が, ODCaseによって変換されるかを調べた.6-Iode-UMPや6-N 3-UMPのC6置換基は, CN基と比べて脱離しやすい.これらの化合物とODCaseの複合体を作製し,結晶構造解析・質量分析・酵素学的分析を組み合わせて調べたところ, Iodo基やN 3基はODCaseのLys72に置換され,ピリミジン環とLys72の間に共有結合が形成されていた. 7) Iodo基の反応速度は,その反応性に対応し,N 3基と比べてかなり早かった.このことは, ODCaseが求電子置換様の脱炭酸反応に加え,求核置換様の反応も触媒することを示す.2.3基質の歪みを用いた反応触媒前述のように, 1つの酵素が同一の反応部位で,求核様・求電子様の両方の反応を触媒できる機構を考えるのは,大変難しい.そこで, 6-CN-UMPの反応が日単位で図2ODCaseによる6-CN-UMPの変換反応.(The conversionof 6-CN-UMP catalyzed by ODCase.)(A)反応式.(B)ODCaseと6-CN-UMP複合体中の,基質ピリミジン環に対応するF o-F c omit電子密度(4σと19σで描画)に, 6-CN-UMP(左)と6-OH-UMP(右)をそれぞれあてはめた構造.*S1図は, J-Stageの電子付録(Supplementary)をご参照下さい.日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)図3ODCaseによる6-CN-UMPの変換反応のスナップショット.(Snapshots of the 6-CN-UMP conversionby ODCase.)上段はK72A変異体(変換反応を触媒しない)と6-CN-UMPの複合体構造.中段と下段は,野生型酵素と6-CN-UMPを混合後それぞれ1日, 2カ月経過した状態の構造.中段の混合後1日目の構造は, 6-CN-UMPの6-OH-UMPへの変換速度を参考に,両基質の占有率を1:1でアサインした.電子密度はすべて基質ピリミジン環のF o-F comit電子密度で,上段が3.5σ,中段と下段が4σ.237