ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

ページ
22/116

このページは 日本結晶学会誌Vol56No4 の電子ブックに掲載されている22ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No4

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No4

熊崎薫,濡木理,石谷隆一郎件にもよるが透明でないことが多く,その場合,結晶を目視で観察することができない.そのため,結晶のセンタリングをする際には, X線を当ててループ全体をスキャンし,得られた回折像によって結晶の位置を特定するディフラクションスキャンが必要となる.放射光施設のビームラインによっては,ディフラクションスキャンにより得られた回折像を解析して,ループ上の結晶の位置を特定するためのソフトウェア(例えばSPring-8 BL32XU,BL41XUのSHIKAなど)が整備されており, LCP結晶のセンタリングに非常に有用である.4.3 X線回折データの処理ループには結晶とともにキュービック相やスポンジ相の脂質がのっているため, X線を当てるとそれらの脂質由来の散乱パターンが観察される(図8).この散乱は,脂質分子のアシル鎖に由来するものであり,脂質の種類や相によって散乱パターンは異なるが,例えばキュービック相のモノオレインではアシル鎖間の距離に相当する4.5 A分解能程度の位置にリング上の散乱が見られる.そのため, LCP結晶から得られた回折データでは,この分解能付近の回折点のバックグラウンドが高く,データの質が悪くなってしまう.回折データを処理する際には, 4.5 A分解能付近の回折点は除いて処理をしたほうが,データが良くなる場合がある.4.4位相決定異常分散を利用した位相決定を試みる際,脂質由来のリング付近の回折がデータに大きな悪影響を与える場合がある.一般に,タンパク質の結晶構造解析においてSAD法やMAD法で位相決定をするには, 3.5 A程度以上の分解能の回折データが好ましいが, LCP法による結晶では,脂質リング由来の回折によって位相決定に重要な分解能のデータが失われてしまう(図9).特に低分解能のデータしか得られない結晶において, SAD法やMAD法で位相決定を目指す場合には注意が必要である.これまでの例はまだ多くはないものの,ランタノイドやタンタルなどの重原子化合物を用いたSIRAS法により位相決定された例がいくつか報告されている. LCP結晶の位相決定において,これらのような重原子を用いた重原子同型置換法は非常に有用な手法である.5.構造解析の実例図8LCP結晶からの回折像.(A diffraction image ofan LCP crystal)4.5 A分解能付近の位置にリング上の散乱が見られる.図9 LCP結晶から得られた回折データの統計値の一部.(Completeness vs resolution for data sets of LCPcrystals.)ここでは,分解能に対するコンプリートネスを示す.上から,すべて, I/σIが3以上, 5以上, 10以上, 20以上の回折点を含めた場合のコンプリートネス. 4.5 A分解能付近のコンプリートネスが低いことがわかる.5.1 YidCのX線結晶構造解析5.1.1結晶化これまで, LCP法を用いた結晶化の原理・手順について述べてきたが,最後に筆者らが実際にLCP法を用いて膜タンパク質を結晶化・構造決定した例を紹介したい.YidCは, 5回膜貫通型タンパク質であり,新規に合成されたタンパク質の細胞膜への組み込みにおいて重要な役割を担っている.筆者らはYidCの結晶構造解析を行い,その構造情報に基づいた機能解析によってYidCによるタンパク質膜組み込みの分子機構の一端を解明した. 10)YidCの結晶化はLCP法で行った. 11) 6 mg/mlの濃度の精製YidCをモノオレインに再構成し, Swissciのサンドイッチプレートを用いて結晶化スクリーニングを行ったところ,一辺10μmほどの板状の結晶が得られた. PEGや塩などの結晶化条件の最適化により, 28~32%PEG500DME, 2.5 mM塩化カドミウム, 100 mMカコジル酸(pH 6.0)の条件で一辺30μmほどの板状の結晶が得られた(図10a).本結晶化条件において,脂質はスポンジ相であったため,結晶のピックアップの際には,いったん18%までPEG500DME濃度を下げて脂質をキュービック相へ相転移させたのちにウェルを開け,その後抗凍結剤として20%のグリセロールを添加したリザーバー溶液を加えて結晶をピックアップした.この結晶を用いてSPring-8 BL32XUにおいてX線回折実験を行ったところ,2.4 A分解能のデータセットが得られた.5.1.2結晶構造解析位相決定のために, Hg, Au, Pt, Ta,ランタノイドなど234日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)