ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

脂質キュービック相法を用いた膜タンパク質の結晶化図2膜タンパク質の結晶中でのパッキングの例.(Crystalpacking of membrane proteins.)(a)TypeI結晶のパッキング.(b)TypeII結晶のパッキング.結晶化プレートの上にタンパク質を再構成した脂質をスポットしてドロップとし,沈殿剤を含んだリザーバー溶液を被せ,徐々に沈殿剤を浸潤させていく.沈殿剤が浸潤することにより,キュービック相が部分的にラメラ相へと変化し,それによって結晶核形成が促され,結晶が成長すると考えられている. 7)沈殿剤の種類によっては,キュービック相の親水性チャネルを広げるような性質をもつものがあり,そのような沈殿剤が浸潤することで,脂質相はキュービック相からスポンジ相へと変化する場合がある.このスポンジ相では,キュービック相と比べ大きな親水性チャネルをもっており,また脂質二重膜の曲率が非常に小さい.そのため,膜貫通回数が多く膜貫通領域が大きな膜タンパク質や,あるいは大きな可溶性領域をもつような膜タンパク質の結晶化に適していると考えられている.相になった脂質に再構成し,結晶化を行う手法である.このLCP法による膜タンパク質の結晶化は, 1996年にLandauとRosenbuschによって提唱された. 5)そしてその後, CaffreyらのグループやCherezovらのグループによって精力的に手法の改良や装置の開発が進められ,現在までに多くの膜タンパク質の結晶構造が決定されてきた.その中でも特筆すべき成果としては, Kobilkaらのグループによってβ2アドレナリン受容体とGタンパク質の複合体がLCP法により結晶化され構造解析がなされた例が挙げられる. 6)本稿では,まずLCP法による結晶化の原理について簡単に述べ,その後,実際の手順やその際に注意すべき問題点ついて述べる.最後に,筆者らがLCP法により膜タンパク質の構造解析を行った実例を紹介する.2.LCP法による結晶化脂質は両親媒性の分子であり,水分子と混合すると,親水性頭部と水分子が相互作用する一方,疎水性尾部が水分子と離れるように分子は振る舞い,ある種の相を形成する.そうした相は,その脂質分子自身の性質や水分子との比率,ほかに存在するイオンや化合物,温度によってさまざまな性質を示す.一般的に,脂質に水を混合すると,水分子の比率が低ければ,脂質二重膜が積み重なったラメラ相を形成する.そして水分子の比率を上げていくと,親水性チャネルをもつ多孔質状に脂質分子が並び,脂質分子と水分子がともに三次元的に流動性をもったキュービック相やスポンジ相(これらはまとめてメゾ相と呼ばれる)を形成する.さらに,水分子の比率が高くなると,親水性頭部を水分子側に向け,疎水性尾部同士が集まったベシクル状の小胞構造を形成する.結晶化では,これらの脂質相のうち,キュービック相とスポンジ相の2つの脂質相が用いられる.LCP法による結晶化では,まずターゲットである膜タンパク質をキュービック相の脂質に再構成する.その後,日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)3.結晶化の手順3.1装置のセットアップ3.1.1脂質LCP法で最もよく使用されている脂質分子はモノオレイン(図3a)である.しかし,キュービック相を形成する脂質はモノオレインに限られるわけではなく,多くのモノアシルグリセロール(MAG)においてキュービック相を形成することが報告されている. MAGにはさまざまな長さのアシル鎖をもつものが存在しているが,アシル鎖の長さによって,形成されるキュービック相における脂質二重膜の曲率,疎水性部位の厚み,親水性チャネルの大きさが異なる.そのため,ターゲットタンパク質に合わせた,脂質の選別・スクリーニングが肝要である.例えば, 7.7MAG(図3a)では,キュービック相の脂質二重膜の曲率は小さく,親水性チャネルの大きさは非常に大きくなるという性質があり, 8)β2アドレナリン受容体とGタンパク質の複合体の結晶化の際に使用された. 6)初めてLCP法での結晶化を行う際には,まずモノオレインを用いて脂質への再構成を試みるのが良いだろう.大きな可溶性領域をもつ膜タンパク質では,脂質への再構成ができない場合がある.その際は, 7.7MAGなどの脂質を試すのが良いと思われる.またコレステロールなどの分子を脂質に加えることが,GPCRにおいて良質な結晶を得るために重要であったということが報告されている.以上の脂質は, Sigma-Aldrich社やAvanti Polar Lipids社, Nu-Chek Prep社などから入手できる.3.1.2ガスタイトシリンジキュービック相の脂質への膜タンパク質の再構成は,先端同士をカップラーにより接続した2本のガスタイトシリンジを用いて行う.これらの器具は,いくつかの会社から販売されているが,代表的なものとして,ハミルトン社製のニードルが取り外し可能なタイプのガスタイトシリンジ(Hamilton Company, 1705RNや1710RNなど)とハ231