ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

特集:生物研究における結晶学-生命現象の可視化への挑戦-日本結晶学会誌56,230-235(2014)脂質キュービック相法を用いた膜タンパク質の結晶化東京大学理学系研究科生物科学専攻熊崎薫,濡木理,石谷隆一郎Kaoru KUMAZAKI, Osamu NUREKI and Ryuichiro ISHITANI: Crystallization ofMembrane Proteins in Lipidic Cubic PhaseStructural determination of membrane proteins is a key step to understand the molecularmechanisms of the membrane proteins. Lipidic cubic phase(LCP)crystallization is atechnique to crystallize the membrane proteins in lipid environment and one of the effectiveapproaches for the membrane protein crystallization. In this article, we describe the overviewof crystallization of the membrane proteins in LCP, including the basic principles and proceduresof LCP crystallization.1.はじめに1.1近年の膜タンパク質のX線結晶構造解析膜タンパク質は,生体膜を介したシグナル伝達・物質の輸送やエネルギー産生など,生物が生命を営む上で必須なさまざまな生命現象にかかわっている.そのために,膜タンパク質の詳細な立体構造を解明することは,その分子機構を理解するという基礎研究の観点のみならず,膜タンパク質をターゲットとした創薬研究の観点からも非常に重要である.現在,タンパク質の詳細な立体構造を解明するための手法としてはX線結晶構造解析が最も広く用いられている.タンパク質のX線結晶構造解析は,ミオグロビンの結晶構造がタンパク質の結晶構造として初めて決定されてから60年近く経つ歴史ある手法であるが,現在でも新たな研究手法が次々と生み出されており,そのためタンパク質の立体構造情報のデータベースであるProtein Data Bank(PDB)の登録数は順調な増加を見せている.その中でも注目すべき点として,膜タンパク質の立体構造の登録数が近年指数関数的に増加している(図1).構造決定された膜タンパク質の数は, 2000年までにはわずか52種類であったが, 2013年までに447種類にまで増加し,ここ5年で2倍以上の大きな増加を見せている. 1)膜タンパク質は,水溶性のタンパク質とは異なり,界面活性剤のミセルに埋め込まれた状態で水溶液中に存在するため,通常の蒸気拡散法を用いた結晶化では良質な結晶が得られにくく,一般的に,膜タンパク質の結晶構造解析は困難であるとされている.そのため,膜タンパク質の構造解析を行うためにさまざまな方法が開発されている.その中で,特に脂質キュービック相法(LCP法)2)やHiLiDe図1PDBに立体構造が登録された膜タンパク質の種類の累積推移.(Cumulative unique membrane proteinstructures in Protein Data Bank.)http://blanco.biomol.uci.edu/mpstruc/より.ただしNMRによって決定された立体構造も含む.法, 3) Bicelle法4)などのTypeI結晶を作ることができる手法に注目が集まっている. TypeI結晶は,ミセルから露出した可溶性領域の相互作用によって積み上がるTypeII結晶とは異なり,脂質の二重膜に埋め込まれた膜タンパク質から作られる二次元結晶が積み重なってできる結晶である(図2).このTypeI結晶では,一般的な膜タンパク質のTypeII結晶に比べ溶媒含有率が低くなることが多く,よく回折する結晶が得られることが多い.中でもLCP法は,蒸気拡散法の次に報告例の多い結晶化法であり, PDBに登録された膜タンパク質のエントリーのうち10%以上を占めている.1.2 LCP法の発展LCP法は,膜タンパク質をキュービック相と呼ばれる230日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)