ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

小段篤史,山口知宏,中津亨,加藤博章図6 CmABCB1とSav1866との構造比較.(Structurecomparison between CmABCB1 and Sav1866.)内向型CmABCB1(左)と外向型Sav1866(右)を細胞外側から(A)と脂質膜に並行な方向から(B)見た図. TM3とTM4は単純化のために省いた.(A)の楕円はホモ二量体の結晶学的な2回回転軸を示す.矢印は内向型から外向型への構造変化におけるTMヘリックスとNBDの移動方向を示す.矢印の黒色と灰色はそれぞれ分子の手前側と奥側の動きを示す.すなわち, TM2とTM5’は,それぞれの細胞内側末端がNBDと同じ方向に動くことで,ホモ二量体の2回回転軸に対して14°, 12°傾き,反対側の細胞外側末端がこの軸から遠ざかるように動く(図6).すると,細胞外側では,TM2, TM5’にひっぱられるように, TM1とTM6’が2回回転軸から遠ざかるように動く.その結果,相互作用が弱いTM1とTM6, TM1’とTM6’の間が互いに離れて,細胞外ゲートが開くというものである(図5B). TM5’はTyr358’を介してTM1, TM6’と強く相互作用しているため(図5B), Tyr358’はこのTM2, TM5’とTM1, TM6’の連動した動きに寄与しうると考えられた.細胞外ゲート付近には分子の外部からaCAPが結合していた(図2).そこで,その結合様式を詳細に観察したところ, aCAPは「かすがい」を打つようにTM2, TM6に結合していた(図7A).具体的には, aCAPのGln4とTrp7がCmABCB1のTM2に位置するLys162とTyr163と,さらに, Phe8の主鎖とAsn9がそれぞれCmABCB1のTM6に位置するAsn378とAsn375と水素結合を形成していた(図7B).したがって, aCAPが結合した状態では, TM2と図7環状ペプチド阻害剤aCAP.(Cyclic-peptide inhibitoraCAP.)(A)CmABCB1-aCAP複合体を細胞外側から見た図.(B)CmABCB1-aCAP相互作用の模式図.破線は水素結合を示す.ともに動くTM1はTM6から離れることができないと考えられた.既述のように, aCAPはCmABCB1のATPase活性を阻害する.したがって, TM1とTM6が離れることはトランスポーター活性に必須であると考えられた.4.おわりにわれわれは,高分解能で決定した内向型CmABCB1の結晶構造解析と部位特異的変異導入による機能解析の結果に基づいて, CmABCB1が多剤を取り込み,構造変化によって排出するメカニズムを提唱した. 12)しかしながら,このメカニズムにおけるアミノ酸残基の役割を明らかにするためには, CmABCB1の外向型構造情報が必要である.これまでのところ,基質やヌクレオチドのアナログを用いて外向型での結晶化を試みてきたが,成功していない.これは, CmABCB1の外向型が,内向型に比べて非常に不安定であるためと考えられる.今後,立体構造に基づいた部位特異的変異導入などの工夫によって, CmABCB1の外向型を安定化して結晶化を達成し,その外向型構造を高分解能で決定することにより,さらに詳細なトランスポーターメカニズムの解明に挑戦したい.228日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)