ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

真核生物由来ABC多剤排出トランスポーターの構造と分子メカニズム図5細胞外ゲート.(Extracellular exit gate.)(A)1つのサブユニットのTM2, TM1, TM6, TM5上にある4層構造を二量体内部から見た図. 4層構造の境界を細い点線で示す.濃い灰色のスティックモデルはアミノ酸変異によって薬剤耐性能が著しく低下した残基を示す.太い破線は水素結合を示す.(B)細胞外ゲートのカギとなるアミノ酸残基を細胞外側から見た図.破線はvan der Waals相互作用を示す.矢印は内向型から外向型への構造変化におけるTMヘリックスの移動方向を示す.薄い灰色の破線は細胞外ゲートが開く位置を示す.ったところ,基質輸送活性と基質依存的なATPase活性が消失していた.これらの結果は,われわれの予想を裏付けており, TM4の形状が多様な基質の取り込みを可能にしているものと考えられた.実は,線虫P-gpのTM10(CmABCB1のTM4に相当)も部分的に二次構造をとっていないことが報告されている. 10)したがって,この基質取込口はおそらくABC多剤排出トランスポーターに共通の特徴であると考えられた.3.3細胞外ゲートTMD内部の空洞に取り込まれた基質は,その高い疎水性のため,より疎水的な場所に移動すると考えられる.そこで, CmABCB1のTMDの構造を詳細に観察したところ,脂質二重膜の中央から細胞外にかけてTM2, TM1, TM6,TM5が密に並んでおり,これらのTMヘリックス上に,芳香族または比較的大きな疎水性アミノ酸残基(Phe, Leu,Ile, Tyrなど)が集まった領域が見出された(図5A).今回決定した内向型構造では,この部位が空洞と細胞外を隔てているため,ここが細胞外へ通じるゲートであろうと考えられた.これらの残基は,その側鎖を二量体の内部に向け,互いにvan der Waals相互作用または疎水性相互作用することによって4層構造を形成し,ゲートの閉じた構造をしっかりと保持していた.さらに, TM1とTM6の間では, Gln147の側鎖がAsn375の側鎖およびGly377の主鎖と, Gly143およびAlaの主鎖がThr381の側鎖と水素結合を形成していた(図5A).この4層構造を構成するいくつかのアミノ酸残基をAlaに置換した変異体を作製して機能解析を行った結果,Tyr358, Ile387, Leu388, Phe384, Phe138(図5A)は,トランスポーター活性に重要であることがわかった.これらの5残基は,隣接する残基との間でvan der Waals相互作用に適した距離にあった(図5B).特に, Tyr358(TM5)はPhe138’(TM1’), Ile387(TM6)との距離がそれぞれ3.5 A,日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)3.3 Aと,その他の残基間(4.0 Aまたは4.1 A)に比べて近い位置にあったため, Tyr358はPhe138’およびIle387と強く相互作用していると考えられた(’は他方のサブユニットのTMへリックスを示す).さらに, Tyr358は,天井部位で空洞内に側鎖を向けるアミノ酸残基の中で唯一,水素結合受容基となりうる側鎖を有していた.ヒトP-gpの多くの基質は水素結合供与基をもっていることが知られている. 23),24)したがって, CmABCB1においても, Tyr358は基質と水素結合を形成しうると考えられた.基質がTyr358と水素結合を形成すると,基質の動きがTyr358と相互作用する周囲の残基を介してこの領域全体に伝わり,その構造を不安定にするのかもしれない.以上の構造機能解析の結果から,細胞外ゲートは内向型において, TM1,TM6, TM1’, TM6’の4本が真ん中でバンドルを作り,そこにTM5, TM5’が加わることで形成さることが明らかになった(図5B).3.4予測される内向型から外向型への構造変化われわれが解析したCmABCB1とSav1866 22)の構造は,それぞれ内向型と外向型で決定された最も高分解能の立体構造であり,両者を比較することで,細胞外ゲートを開くために,内向型から外向型への構造変化がどのように起きるかを詳細に推測することができた.外向型のSav1866では, NBDが二量体を形成している(図6).内向型のCmABCB1のNBDがこの二量体を形成するためには,ホモ二量体の2回回転軸に近づく10 Aの並進と,この軸に対する19°の回転(図6A)および10°の傾斜(図6B)という動きが必要であると考えられた.一方, NBDどうしの重ね合わせでは,CαのRMSDが2.4 Aとよく一致していた.したがって, NBD内部の構造変化は小さく,剛体として動くと思われた.NBDの動きに伴って細胞外ゲートが開くためには,TM2とTM5’の動きが重要な役割を果たすと考えられた.227