ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

小段篤史,山口知宏,中津亨,加藤博章図2CmABCB1-aCAP複合体の結晶中でのパッキング.(Crystal packing of CmABCB1-aCAP complex.)濃い灰色はaCAP分子,薄い灰色はCmABCB1分子を示す.aCAP(anti-CmABCB1 peptide)を新たに見出した. aCAPは18アミノ酸残基で構成される環状ペプチド(分子量:2123)であり, CmABCB1のATPase活性を強力に阻害(K i=65 nM)した.そこで, aCAPとCmABCB1との複合体結晶を作製したところ,複合体構造を2.4 A分解能で決定することができた.ただし,予想に反してaCAPは,分子の外部から結合しており,輸送基質が結合するであろう分子内部には結合していなかった.aCAP複合体の分解能が2.4 Aに向上した要因は, aCAPの結合自体がCmABCB1の「内向型構造」を安定化したためであると推察された.というのも,図2に示したように, aCAPは結晶のパッキングには関与していなかった.3.CmABCB1の立体構造図3野生型CmABCB1の全体構造.(An overall structureof wild type CmABCB1.)黒色と灰色の水平線はそれぞれ,脂質二重膜の親水性表面と疎水性表面を示す.破線は脂質二重膜の中間位置を示す.3.1全体構造CmABCB1の全体構造は,基質を取り込むのに都合のよい「内向型構造」をとっていた(図3). CmABCB1はホモ二量体を形成し, 2つのサブユニットはそれぞれ1つずつのTMDとNBDから構成されていた. TMDは全体の高さの約半分が脂質二重膜の疎水性領域に埋まり,残りの約半分が細胞内側に突き出てた特徴的な構造をしていた.ちなみに,脂質二重膜はリン脂質の2つの層からなり,細胞内側と細胞外側はそれぞれ内葉,外葉という.また,この脂質膜は,リン脂質の脂肪酸尾部から形成される疎水性領域と,親水性頭部から形成される細胞外または細胞質との境界とに分類される. TMDは, N末端のelbow helixとこれに続く6本の膜貫通ヘリックス(TM),さらにTM2とTM3およびTM4とTM5それぞれの間にあるIH(Intracellular Helix)1とIH2から構成されていた.以前に報告されたように, 22) IH1とIH2はNBDと相互作用していた.このTMD内には大きな空洞(7648 A 3)が認められた.3.2基質の取込口CmABCB1のTMD内部の空洞は, TM4とTM6の間を図4基質の取込口.(Intramembranous entrance gate.)TM4の二次構造をとっていない領域(図下の枠内の配列)付近の拡大図を示す. TM4を除くTMDの表面構造を半透明に表示している.半透明の破線の枠は基質取込口を示す.通して脂質二重膜の内葉の疎水性領域へと繋がっていた(図4).この空洞は基質結合部位であることが示唆されている. 9)また,ヒトP-gpの基質は,脂質膜の疎水性領域に濃縮されることが知られている. 3) CmABCB1においても同じことが考えられるため,基質はTM4とTM6の間の脂質二重膜の内葉側部分から, TMD内部の空洞に取り込まれると考えられた. TM4はGly277からGly286の間で二次構造をとりにくいのに加え, Pro271とGly299で曲がることができる(図4).このTM4の柔軟さにより, TM4とTM6との間は大きく開き得ると予想された.そこで,TM4の柔軟性を低下させたVVV変異体の機能解析を行226日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)