ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

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日本結晶学会誌Vol56No4

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概要

日本結晶学会誌Vol56No4

真核生物由来ABC多剤排出トランスポーターの構造と分子メカニズムに適したABC多剤排出トランスポーター分子を選抜するため,好熱性単細胞真核生物である紅藻(Cyanidioschyzonmerolae)のABCトランスポーターに着目した. C. merolaeは,全ゲノム配列が解読されていることから, 14)遺伝子のクローニングが容易であり,温泉に棲むため(42℃, pH2.5が至適),そのABCトランスポーターは熱安定性が高く,高分解能での構造決定に適していると予想されたからである.未精製状態で結晶化能を判別するため,蛍光ゲルろ過法を用いたスクリーニング, 15),16)を16種類のABCトランスポーターに対して実施した結果, CMD148Cが結晶化に向いていることが示唆された. CMD148Cは,ハーフサイズのABCトランスポーターであり,ヒトP-gp(フルサイズ)のN末端側と41%, C末端側と37%の相同性を有していた.さらに, CMD148Cの機能を調べるため, CMD148Cを7つの内在性ABC多剤排出トランスポーターを欠失させた酵母(Saccharomyces cerevisiaeAD1-8u ?株)17)に組み込み,薬剤耐性試験を行った.その結果, CMD148Cを発現させたAD1-8u ?株は,ヒトP-gpの輸送基質であるrhodamine 6G, monensin, etoposide,tetraphenylphosphoniumおよびfluconazoleに対して顕著な耐性を示した.また,精製したCMD148CのATP加水分解(ATPase)活性を調べたところ,これら輸送基質の添加によってCMD148CのATPase活性は顕著に上昇し,その速度論的挙動はヒトP-gp 18)と非常に類似していた.これら結果を踏まえ,われわれは,この分子をC. merolaeのABCB1という意味でCmABCB1と名付けた. 12) CmABCB1は熱安定性が非常に高く,界面活性剤ミセル中において48℃で16時間インキュベートした後でも91±5%のATPase活性が残存していた.このことから,高分解能での結晶解析に適しているものと考えられた.2.2 CmABCB1の発現および精製CmABCB1の大量発現には,ジャーファーメンター(溶存酸素, pH,温度を自動制御)を用いたメタノール資化性酵母(Pichia pastoris SMD1163株)の高密度培養19)を適用した.発現細胞から膜画分を調製し,界面活性剤(C 12E 9)で可溶化した後, His-tagクロマトグラフィーとゲルろ過により精製標品を得た.当初,全長のCmABCB1タンパク質を用いて結晶化スクリーニングを行ったが,再現性よく結晶が得られなかった.そこで,トリプシンによる限定加水分解, N末アミノ酸分析および質量分析(MALDI-TOF)を行ったところ, N末端側の約100残基が非常にフレキシブルであることが判明した.この部分はほかのABCトランスポーターでは保存されておらず,この部分を取り除いたCmABCB1は,全長の分子と同様のATPase活性を示した.さらに,ゲルろ過における単分散性が向上したことから, N末端側の92残基を取り除いたCmABCB1を精製標品として結晶化に用いることとした.日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)2.3 X線結晶構造解析上記の精製標品を用い,シッティングドロップ蒸気拡散法により20℃にて結晶化を行ったところ, CmABCB1の結晶(空間群R 32)が再現性よく得られた.さらに,母液の至適化,脱水処理および抗凍結液の至適化を行った結果,分解能を2.75 Aまで向上させることができた.位相決定は,水銀化合物(ethyl mercury phosphate)の重原子誘導体結晶を用いた多波長異常分散法(MAD)により行った. SPring-8 BL41XUを利用してX線回折実験を行い,3.1 A分解能にて初期位相を決定した.2.4分解能の改良2.4.1 VVV変異決定した野生型CmABCB1の結晶構造を観察したところ,後述する膜貫通(Transmembarne, TM)ヘリックスTM4の一部の電子密度が非常に低く(図1),この領域が非常にフレキシブルであることが判明した.そこで,そのフレキシビリティを抑えると予想される変異体(G277V/A278V/A279V,以降, VVV変異体と呼ぶ)の結晶を作製し構造解析を行った.その結果, TM4全体に明確な電子密度が観測され(図1),分解能が2.6 Aまで向上した.2.4.2環状ペプチド阻害剤aCAP複合体これまで,野生型およびVVV変異体を用いてさまざまな基質との共結晶化を試みたが, TMD内の空洞にはっきりとした基質の電子密度を捉えることができず,基質認識部位を特定できていない.これは, CmABCB1と輸送基質の相互作用が非常に弱いためなのではないかと考えられた.そこで,既知のリガンドより親和性の高い基質あるいは阻害剤を取得するため, RaPIDシステム20),21)を用いた環状ペプチドのIn vitro selectionにより, 10 12種類以上のランダムライブラリーを合成した.その結果,最もよく結合する基質rhodamine 6Gよりも100倍親和性の高い分子図1 CmABCB1野生型およびVVV変異体のTM4周辺の電子密度(2F obs-F calc, 1.0σ).(Electron densitymaps around TM4 of CmABCB1 wild-type andVVV mutant.)225