ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No4

ページ
12/116

このページは 日本結晶学会誌Vol56No4 の電子ブックに掲載されている12ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No4

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No4

特集:生物研究における結晶学-生命現象の可視化への挑戦-日本結晶学会誌56,224-229(2014)真核生物由来ABC多剤排出トランスポーターの構造と分子メカニズム京都大学物質-細胞統合システム拠点小段篤史京都大学大学院薬学研究科山口知宏,中津亨,加藤博章Atsushi KODAN, Tomohiro YAMAGUCHI, Toru NAKATSU and Hiroaki KATO: Structureand Mechanism of a Eukaryotic ABC Multidrug TransporterATP-binding cassette(ABC)multidrug transporters are membrane proteins which transportvarious structurally unrelated substrates using the energy of ATP hydrolysis. The precise transportmechanisms of a human ABC multidrug transporter, P-glycoprotein(hP-gp), are not fullyunderstood based on the crystal structure, because of the difficulty of crystallization of hP-gp.Recently, we have determined the crystal structures of a hP-gp homolog, CmABCB1 fromCyanidioschyzon merolae, at 2.6 A, and its complex with a novel allosteric inhibitor at 2.4 A.Here, we present how these high resolution structure determinations were achieved, andexplain the detailed architecture of the transmembrane domains of CmABCB1.1.はじめに1.1 ABCタンパク質ABC(ATP-Binding Cassette)タンパク質は,よく保存されたATP結合ドメイン(Nucleotide-Binding Domain, NBD)をもつファミリーに属し,トランスポーター,チャネル,レギュレーターなど多様な機能をもつ.いずれの場合も,NBDによるATP加水分解反応と共役させることにより,それぞれの機能を発現している. ABCタンパク質は,生理的に重要な役割を担っていることから,それぞれの遺伝子の異常がさまざまな疾病を引き起こす. 1) ABCタンパク質は,バクテリアからヒトまで生物界に幅広く存在している.ただし, ABCトランスポーターの場合,真核生物では,輸送方向が細胞内から細胞外へと排出する方向に限られるのに対して,原核生物では,外部から細胞内へと取り込むABCインポーターも存在している. 2)ABCタンパク質は,基本的に2つのNBDと2つの膜貫通ドメイン(Transmembrane Domain, TMD)から構成されている.これら4つのドメインは, 2つの別々のポリペプチド,あるいは, 1つのポリペプチドとして存在する.前者はハーフサイズのABCタンパク質,後者はフルサイズのABCタンパク質と呼ばれる.1.2 P糖タンパク質(P-glycoprotein, P-gp)ヒトのABCタンパク質で最初に単離されたのがABC多剤排出トランスポーターのP-gp(ABC sub-family Bmember 1, ABCB1;multidrug resistance protein 1, MDR1)である. ABC多剤排出トランスポーターは,主に脂質膜内の多様な化合物を細胞外へ排出する輸送体膜タンパク質である.薬理学的には化合物の細胞内動態の決定因子であり,とりわけ癌の多剤耐性の原因分子として注目されている. 3)-8)しかし,結晶構造については,マウスP-gp(3.8 A)9)および線虫P-gp(3.4 A)10)が報告されているにすぎず,細菌のホモログ11)を含めても, ABC多剤排出トランスポーターと輸送基質との複合体を高分解能で解明した例はまだない.そのため, ABC多剤排出トランスポーターの最大の特徴である「分子量100から4000までの多種多様な疎水性基質を認識して膜外へ輸送できる不思議なメカニズム」の構造基盤は依然として未解明のままである.最近,われわれは,ヒトP-gpとよく似た広い基質特異性を有するABC多剤排出トランスポーターCmABCB1を発見し, X線結晶構造解析によりその立体構造を最高2.4 A分解能にて決定した. 12)本稿では,この高分解能での構造決定をどのような工夫により達成したかについて解説し,明らかになったCmABCB1の機能と立体構造の関係について紹介する.2.ABC多剤排出トランスポーターの高分解能での結晶構造解析に向けた試み2.1 P-gpホモログの発見われわれは,ヒトP-gpの結晶化に10年近く挑戦し続けてきたが,その熱安定性の低さ13)から,これまでのところ成功には至っていない.そこで,高分解能での構造決定224日本結晶学会誌第56巻第4号(2014)