ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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概要

日本結晶学会誌Vol56No1

談話室ではなく,近くのビルもかすむような状態でした.しかし,周りにマスクを着用している人がまったく見当たらなかったため,学会会場ではマスクなしで過ごすことになりました.宿泊ホテルから会場があるHong Kong Universityof Science and Technologyまでは送迎バスが往復しており,移動は非常にスムーズに行うことができました.バスでの移動中でも参加者と議論を行うことができ大変有意義であったと感じます.9日の朝には,東工大の細野先生から, Plenary Lectureとしてアニオンとして電子を含有している電子化物(エレクトライド)についてのご講演がありました.これまでに何回かエレクトライドについてのお話を伺ったことがありました.初めてのときに,世の中にこんなに面白い研究があるのかと強い衝撃を受け,私もいつかは,エレクトライドのようなシンプルかつ根源的なコンセプトをもつ新しい材料を開発したいと強く思いました.細野先生は,これまでに,エレクトライドに関して多数の驚くべき発見をされております.今回のご講演では,酸化物の超伝導発現機構を理解する上で重要な相を観測されたというお話をされました.エレクトライド(C12A7:e ?)については,すでにディスプレイへの応用利用まで進められていますが,その一方で,基礎物性の探索にも重きを置かれていることに感銘を受けました.さらに,エレクトライドをアンモニア合成触媒への応用された成果についても伺うことができました.アンモニア合成反応においてエレクトライドが通常の酸化物担体とは異なる挙動を示すことはエレクトライドが電子のスポンジとして作用するためであるとの説明をいただきました.多方面において優れた研究展開を行うには,常に材料の本質を見極める力をもっていなければならないと改めて痛感しました.Plenary Lectureに続いて,ラウエ博士やブラック親子らの結晶の回折現象の発見から100年にあたる2014年が国連にて世界結晶年(International Year of Crystallography2014)として制定されたことを記念して,世界中で行われている取り組みについての紹介がありました.結晶学が世界の科学技術にどのように貢献してきたかを讃えるばかりでなく,将来の研究者となる少年少女に結晶学を浸透させるためのユニークな取り組みや,結晶学の展延を科学教育が未だ不十分である地域に広げるための取り組みなどが紹介されました.結晶学が100年経っても,色あせずますます広く深く発展していくのは,結晶および回折という概念が自然科学における文化形成に貢献するものであるためであると理解できました.次に, MS-8のDynamic Aspects of Crystalsのセッションで講演を聞きました. POSTECの河野先生とKEKの足立先生が座長をされていました.セッション名に即して,外部刺激に応じて多様な性質を示す物質系や解析法の開発動向についてのすばらしい発表プログラムが組まれていました.特に,北海道大学の伊藤先生が発見された機械的刺激による金錯体の単結晶-単結晶構造変換についてのご発表に興味をもちました.結晶の一部に機械的刺激を与えるとそれがドミノ式に結晶全体に伝搬するという発見もさることながらその後の研究展開もすばらしいと思いました.さらに,最新の放射光を使った測定および解析法についての発表を伺うことができ,改めて,放射光技術を利用しながら材料研究を進めることが重要であると思いました.午後からは, MS-11のMagnetic and Conductive Materialsのセッションで時間分解測定によるナノ合金の構造変化過程の研究成果について発表を行いました.セッションのテーマとは少し異なる内容であったにもかかわらず,会場からはいくつかの質問をいただくことができ,今後の研究展開に活かしていきたいと思いました.セッションの終了後,夕方からは,バンケットが開催されました.学会会場とバンケット会場が離れていたことと市内渋滞のために移動には少し時間がかかりましたが,何のトラブルもなくスムーズにバンケットを始めることができました.バンケットでは,普段は話をすることができない著名な先生方と交流をもつことができました.また,最もうれしかったのは,以前,放射光施設でお世話になった方々や同じ学会に参加していた友人に再会して話をすることができたことです.放射光施設の利用を始めたころと現在とでは,知人も私も所属も立場も変わっていました.昔話も楽しかったのですが,皆さんが,現在の立場から私たち化学者が研究を行う上で重要な情報やアドバイスして下さったことは大変ありがたいことと思いました.われわれが放射光を使った研究を進められるのは,周りの方の協力あってのことであるとしみじみと感じました.10日は, Nano- and Energy Related Materialsのセッションに座長として参加しました.第3回気候変動枠組条約締約国会議における京都議定書の採択,福島の原発事故後の脱原発へ向けた取り組みなどがきっかけとなって,再生可能エネルギーの有効利用にかかわる技術の開発が盛んに行われています.このセッションでも,高効率物質変換を目指した触媒材料や燃料電池の固体電解質およびバッテリー材料についての研究発表があり,材料の高機能発現および性能向上のために何が必要であるか議論されました.時間分解測定,微小領域測定および雰囲気制御下でのその場測定などナノ材料の特性を調べるための優れた研究方法が開発されています.このような放射光を用いた最先端の計測技術を駆使して材料の根本を深く知ることができればエレクトライドのように実用化まで材料開発を進めることができるかもしれないと期待と希望をもつことができました.初めて参加したAsCAの会議は,結晶学に関する最新の研究成果について議論する場でありながら,アットホーム66日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)