ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6

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日本結晶学会誌Vol55No6

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日本結晶学会誌Vol55No6

π共役金属ジチオレン錯体の新次元展開図4電子機能性部位を有する白金ジチオレン錯体の化学構造と分子内電荷移動(=intramolecular chargetransfer:ICT).(Chemical structures and intramolecularcharge transfer(ICT)of platinadithiolenecomplexes having redox active moieties.)しながらPt(t Bu 2bpy)(tempodt)では, Ptジチオレン骨格形成に伴い,π共役ジチオレン由来の軌道の電子密度分布およびエネルギーが変化した結果, TEMPO由来のSOMOが,Ptジチオレン錯体部位に広がった軌道(HOMO,最高被占有軌道)よりも低エネルギー側に位置する(=SOMO?HOMOlevel conversion)という特異な電子状態を有していることがわかった.この分子を酸化すると, TEMPOの不対電子を残したままPtジチオレン部位から一電子が取り除かれ,結果としてTEMPOとPtジチオレン部位にそれぞれ不対電子を有するジラジカルが生成する.われわれはさらに, SOMO?HOMO逆転の電子状態が新しい化学反応を創出し得ることを明らかにした. 5)金属ジチオレン錯体に新たな酸化還元ユニットを導入した系として,図4に示す分子を合成した.[Pt(t Bu 2bpy)(1-pdtPyl)]+は,電子ドナー性のPtジチオレン錯体骨格と電子アクセプター性の拡張ピリリウム部位間に働く強い分子内電荷移動相互作用の結果,原子価互変異性を示す. 6)一方フェロセン部位を有する[Pt(t Bu 2bpy)(FcS 4dt)]+のモノカチオン体では,電子ドナーであるフェロセンに対し,金属ジチオレン錯体部位が電子アクセプターとして働き,分子内電荷移動相互作用を示す. 7)この章では, Ptを中心金属とした錯体に的を絞って高次機能化の例を紹介したが,ほかにもAuやNiを用いた錯体についても研究を進めていることを付記しておく.2.3クラスター化による新機能創出われわれは,金属イオンを複数集積した金属ジチオレンクラスター錯体の合成および特異な物性の開拓を目的として,ベンゼンヘキサチオール(bht)からなる三角形3核ジチオレン錯体に着目した(図5a).ベンゼンヘキサチオール(bht)はベンゼン分子のすべての水素原子がチオール基に置換された化学構造を有しており, 3つの金属イオンを三角形(理想的には正三角形)に集積することができる.これらの金属イオンはπ共役平面で連結されているため,π共役を介した金属イオン間電子相互作用に基づく混合原子価状態や, 3回対称性に基づくスピンフラストレーションの発現が期待できる.われわれは,クラスター錯体の対配位子L(図5a)を工夫することで, 9族元素(Co,日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)図5(a)三角形3核錯体の化学構造と機能の拡張.(b)三角形3核錯体および9核錯体の結晶中における分子構造. Insetは9核錯体のIrおよびCo原子とbht配位子の結合様式を示す. bht:ベンゼンヘキサチオール, tht:トリフェニレンヘキサチオール.(Chemical and molecular structures of triangulartrinuclear complexes and a nonanuclear complex.)Rh, Ir)のみならず, 8族(Ru)および10族元素(Ni, Pt)を用いた3核ジチオレン錯体を合成することができた. 8)-10)Ruを中心金属とした(RuC 6Me 6)3(bht)の結晶中における分子構造を図5b左に示す. 3つのRuイオンが配位子のπ共役部位と同一平面上に位置していることが確認できた.この錯体の電気化学測定を行った結果, 3つのRuイオンに由来する3段階の1電子還元反応が観測された(図6a左).これは,本来同一の化学環境にある3つのRuイオンが, 3つ同時ではなく1つずつ順番に還元されることを意味している(図6b).この結果から, 1電子および2電子還元状態において,金属イオン間に電子相互作用が働き,混合原子価状態を形成していることが明らかとなった.同様の3段階1電子還元反応は, 9族元素からなる3核錯体でも観測された.興味深いことに(RuC 6Me 6)3(bht)は3段階の1電子酸化反応を示した(図6a右).これらの酸化反応は,電子ドナー性を有する3つのRuジチオレン環の酸化に由来するものであり, 1電子および2電子酸化状態における新たな混合原子価状態の形成が見出された(図6b). 10)金属間相互作用の長距離伝達を目的として,トリフェニレンヘキサチオール(tht)骨格を有する三角形3核錯体(MC 5Me 5)3(tht)(M=Co, Rh, Ir)を合成した(図5a).トリフェニレンはベンゼンより広い平面π共役系を有す325