ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6

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日本結晶学会誌Vol55No6

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概要

日本結晶学会誌Vol55No6

アルミン酸カルシウムガラスにおける溶媒和電子の形成を促すかご状構造図3 RMC-DFTシミュレーションから得られた50CaOガラス(赤色), 64CaOガラス(青色)のリングサイズ分布.(The ring size distribution for(a)Al-O rings,(b)Ca-O rings, and(c)(Al, Ca)-O rings calculated from theRMC-DFT models of the 50CaO(red)and 64CaO glass(blue).)(a)Al-Oのみからなるリング,(b)Ca-Oからのみなるリング,(c)Al-O, Ca-Oからなるリング.のように発達しているかを調べる指標としてリング分布を計算した.図3に(a)CaO-Al 2O 3ガラスのAl-Oのみからなるリング,(b)Ca-Oからのみなるリング,(c)Al-O, Ca-Oからなるリングのサイズ分布を示す.ここでリングの定義をしておく.例えばAl-Oのみからなる3員環(図3a)とは, AlO 4, AlO 5, AlO 6のいずれかの3つがOを介して,頂点を共有して繋がって形成されるリングのことを指す.つまり, 3員環を構成する原子数は6個である.よって, 2員環とは2つのAlO多面体からなるリングであり,これはリングというより2個のAl, 2個のOからなる多面体の稜共有の形成を意味する.図3より,(a)Al-Oのみからなるリング分布,(c)Al-O, Ca-Oからなるリング分布において64CaOガラスは50CaOガラスより8員環以上の大きいリングを多くもち,かつリング分布がより広いことがわかる. GuptaとCooperは,このように広いリング分布をもつことを“トポロジカルに無秩序”と定義し,ガラス形成能の高いガラスの特徴であると提案した23)が,本解析結果は,精密な実験とシミュレーションの融合によってこの提案が正しいことを証明した.また,われわれはMgO-SiO 2系ガラスついてガラス形成能が高い組成のガラスのほうがより“トポロジカルに無秩序”である3)ことを報告してきたが, CaO-Al 2O 3系ガラスににおいてもこの法則があてはまることを今回明らかにした.さらに,典型的なガラス形成物質であるシリカ(SiO 2)ガラスに存在しない3) 10員環以上の大きなリングの存在は,この64CaOガラスの重要な特徴と言え,ガラス中に大きなかご状構造が存在していることが示唆される.5.64CaOガラスの空隙構造と電子状態Zachariasen 1)の定義するガラス形成物質(SiO 2, B 2O 3,P 2O 5, GeO 2, As 2O 3)は,一般に同じ組成の結晶相と比べると低密度であることが多いことから,ガラスには多くの日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)図4 RMC-DFTシミュレーションから得られた64CaOガラスの原子配列と空隙の分布.(The RMC-DFToptimized atomic configuration and cavities in the64CaO glass.)空隙が存在している.実際に最近のわれわれの空隙解析の結果によると,シリカガラスには,おおよそSiO 4正四面体1つが収容できる程度の大きさの穴を空隙と定義した場合,全体積の約30%が空隙に属することになる. 3)このガラスにネットワーク修飾物質と呼ばれるNa 2OやCaOを添加すると,空隙はNaやCaといったカチオンによって占有されることが知られている. 64CaOガラスの空隙の割合をRMC-DFTモデルから計算し,可視化したものを図4に示す.直径2.5 A以上の球が収容できる空隙の割合は全体積のわずか2.7%(紫色で表示)であったが,直径2.3 A以上の球が収容できる空隙は全体積の10%(水色で表示)存在していた.次に,通常の64CaOガラスのhighest occupied molecularorbital(HOMO)とlowest unoccupied molecular orbital359