ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6

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日本結晶学会誌Vol55No6

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概要

日本結晶学会誌Vol55No6

アルミン酸カルシウムガラスにおける溶媒和電子の形成を促すかご状構造炭酸ガスレーザーや半導体レーザーを用いて試料を加熱融解することで,無容器状態の融体を実現することができる.今回は酸化物ガラスの合成に向いているガスジェット浮遊法9)-11)を用いた.本法では,試料を不活性ガスのジェットフローで浮遊させ,炭酸ガスレーザーにより加熱融解した試料をレーザーの遮断による緩やかな冷却(冷却速度は最大で1000℃/s程度)により高純度のバルクガラスを得た.得られたガラスの密度は,ガスピクノメータを用いて精度良く測定した.そして,ガラス構造を調べるために,高エネルギーX線回折, Ca K吸収端におけるXAFS測定を大型放射光施設SPring-8で行った.さらに,中性子回折測定をアルゴンヌ国立研究所のパルス中性子施設IPNSで行った.3.RMCモデリングとDFT計算の組み合わせCaO-Al 2O 3ガラスの三次元原子配列と電子状態を調べるために,実験データに基づいた逆モンテカルロ(reverseMonte Carlo, RMC)モデリング12)と大規模密度関数(density functional theory, DFT)計算を併用した. RMCモデリングは, McGreevyとPusztaiにより1988年に考案された手法で,乱数を用いて原子を動かすことで,回折実験やXAFS実験を再現する三次元構造モデルを構築する方法である. 12)原子間ポテンシャルを必要としないのが特徴であることから,ガラス・液体・アモルファス物質の構造モデリング法として広く利用されてきたが,のちに結晶への適用をはじめ,さまざまな発展を成し遂げてきた. 13)本手法の基本アルゴリズムはMetropolis Monte Carlo法14)と同じであることから計算が高速であり,容易に大規模な構造モデルを構築できる.また,近年では,プログラムコードがマルチスレッド化されており, 15)パソコンで容易に扱えるという利点がある.一方でRMCモデリングの問題として,一意的な構造モデルが得られないことが指摘されてきた. 13)よって, RMC法の限界,すなわちどこまで踏み込んだ議論ができるかに注意する必要がある.DFT計算は対象とする系の平衡構造,電子状態や原子の振動特性などが得られる有用な計算法である.欠点としては計算量が多いことであり,大規模な系を扱うにはスーパーコンピューターを利用する必要がある.また,ガラスやアモルファス物質のDFT計算を行う場合にはその初期構造が必要である.本研究では, X線回折・中性子回折・CaのK吸収端のXAFSのデータを同時に再現するガラス構造モデルをRMC法により構築し,その構造をDFT計算により最適化した.本手法は,一見簡便な手法に見えるが, RMCモデリングは一般にはランダムな原子配列をもつ構造を初期構造として,与えられた実験データを再現する三次元構造を構築する手法である13),16)ことから, DFT計算との組み合わせには困難を伴う.例えば, RMCモデリングから日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)得られた構造は, 3つの原子からなる角度の分布が実際よりも広がってしまう問題がある. 17)実際には分布の中心位置は正しいことから,通常の原子配列の解析においては大きな問題にはならない.ところが,こういった角度分布の広がりはDFT計算においては電子の非局在化という問題を招くことから, RMCの構造をDFTで構造最適化する過程でDFT計算が発散したり,実験データの再現が悪くなるケースがある. DFTで適切に構造最適化し,かつ実験データを再現する構造モデルを構築するにはRMCの束縛条件(とくに角度分布の広がり)の検討において多くのトライアルアンドエラーを繰り返す必要があり,現段階では完全に完成した手法とは言い難い.しかしながら,ガラス・アモルファス物質のような非周期系材料の電子状態を調べるという新たな試みの第一歩としてCaO-Al 2O 3系ガラスへの適用を実践した. 18)RMCモデリングとDFT計算を組み合わせた計算は以下の手順で行った.最初に, 50CaOガラス, 64CaOガラスともに1078個の粒子を用いて, X線回折,中性子回折から得られた構造因子S(Q)および, Ca K吸収端のXAFS実験から得られたk 3 ・χ(k)を同時に再現する構造モデルをRMCモデリングにより構築した.続いてDFT計算により構造最適化を行った.ここで,実験データとの一致が悪くなる,あるいはDFT計算が発散する場合は, O-Al-Oの3つの原子がなす角度の分布や各原子間の最近接距離の束縛を変更し, RMCとDFTの反復計算を行うことにより,実験データを再現し,かつエネルギー的に安定な構造を決定した.4.CaO-Al 2 O 3ガラス構造とガラス形成能との関係中性子回折, X線回折から得られた50CaOガラス,64CaOガラスの構造因子S(Q),およびCa K吸収端におけるEXAFS実験より得られたk 3 ・χ(k)と, RMC-DFTモデルから得られた計算値を図1に示す.これより,両組成においてRMC-DFTのモデル(黒線)はX線回折および中性子回折の構造因子S(Q), XAFSのk 3 ・χ(k)の実験値をよく再現していることがわかる.図2にRMC-DFTシミュレーションより得られたCaO-Al 2O 3ガラスの二体分布関数g ij(r)を示す.今回のシミュレーションにおいては両組成ともに, 1078個の粒子を用いて行ったため,三次元構造モデルから直接g ij(r)を計算しても十分な統計精度を有していることがわかる.両組成のデータを比べると,ガラス形成能の差に結びつく構造の差は二体相関として捉えられる短・中距離相関からは観察されなかった.そこで,各原子の周りの配位数の計算を行った(表1).これより2.5 Aを第一配位圏と定義したときのAlの周りのOの平均配位数N Al-Oは50CaOガラスで4.3, 64CaOガラスで4.1となった.液体Al 2O 3における配位数が4.4 19)で357