ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6

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日本結晶学会誌Vol55No6

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概要

日本結晶学会誌Vol55No6

低エネルギー電子回折イメージング図1回折イメージング概念図.(Schematic diagram ofdiffractive imaging.)置くことで回折パターンを得ることができる.すなわち,結像レンズもしくはプローブ形成のためのレンズを用いず試料構造像が得られることから,回折イメージングはレンズレスイメージングと言える.このとき分解能は,通常レンズ収差で制限されるのと異なり,取得する回折角で決まり,レンズ収差の影響を受けない高分解能像を得ることが可能となる.一般に回折イメージングでは,微粒子やナノチューブのような孤立した試料を用いる.もしくは,微小絞りを用いて,観察領域を制限する.これは,照射ビームの可干渉距離より試料を小さくして,コヒーレントな条件での回折パターンを得るためである.可干渉距離はλ/2α(λ:ビームの波長,α:開き角)32)で見積もられる.例えば照射ビームの開き角が0.1 mradの場合,エネルギー200 keVの電子ビーム(波長0.00251 nm)での可干渉距離は13 nm程度,エネルギー30 keV(波長0.00698 nm)では35 nm程度となり,適用できる試料はこれより小さいものが求められる.これは,制限視野電子回折で用いる試料領域より小さい.そのため,用いる試料に適した観察領域が得られるよう,照射ビームの平行度を設定する必要がある.もしくは,波長の長い低エネルギー電子ビームを用いることが有利となる.一方X線の場合は,波長が0.1 nmオーダーであり,観察できる試料サイズはμmオーダーとなっている.フーリエ反復位相回復法は,実空間と逆空間に拘束条件を課したうえで,フーリエ変換を繰り返す手法である.逆空間では,実験で得た回折パターンから導出した振幅(実験データの平方根)を常に用いることが拘束条件である.実空間では,試料が存在する領域を規定し(サポートと呼ぶ),その外は何もないことを拘束条件とする.このプロセスを図示したのが図2である.この反復計算は,ある初期条件(例えば,実空間でのランダムな振幅)から始める.初期条件をフーリエ変換し,導出された振幅値(F(k))を実験で得られた回折パターンの振幅値(F'(k))に置き換え,位相はそのまま残し,置き換えた振幅と残した位相とを用いて逆フーリエ変換を行う.実空間での拘束条件(サポート外の情報の処理の仕方)にはいくつかのバリエーションがあるが,最も単純な拘束条件であるerror reduction日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)図2フーリエ反復位相回復法概念図.(Schematic diagramof iterative phase retrieval.)(ER)9)では,サポートSの外側(r ?S)は0とし,内側(x∈S)は逆フーリエ変換で得た振幅値を残す(f(r)=f'(r)).この条件を以下のように記述する:()∈? fn' r , r Sfn+ 1()=r ?? 0,r?S(1)また, ERとともによく用いられるhybrid input-output(HIO)9)では,()∈? fn'r , r Sfn+ 1()=r ?? fn()? rβfn'() r , r? S,0<β< 1(2)と設定する.すなわち,サポート内側では逆フーリエ変換後での計算値(f n'(r))を残し,サポート外側では,前回拘束条件を付加した実空間での振幅(f n(r))と逆フーリエ変換後の値(f n'(r))に重み(β:0~1)掛けた値の差分とする.以上のような計算機処理を繰り返すことで,徐々に位相が再生される.再生された位相情報と実験で得た回折パターン(振幅情報)から実空間の像を再構成する.本研究では, HIOで数百~数千回の反復計算を行った後ERで数百~数千回反復計算を行うような, HIOとERを組み合わせて実空間拘束条件として用いることとした.なお,運動学的近似が成り立ち,回折強度が中心対称となる場合には,フーリエ反復位相回復を行って得られる再構成像は実数となる.このとき, X線では試料の電荷密度分布が得られ,電子ビームでは静電ポテンシャル分布が得られる.3.低エネルギー回折イメージングの実証および原子分解能の実現本研究ではまず, RHEED用装置を改造したプロトタイプ実験機を用い,多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を試料として低エネルギー電子回折イメージングの原理検証を行った. 19)図3に得られた回折パターン(a)とフーリエ反復位相回復法を適用した後の再構成像(b)を示す.351