ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6

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日本結晶学会誌Vol55No6

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概要

日本結晶学会誌Vol55No6

逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の磁気体積効果と巨大負熱膨張図4化学量論比にあるMn 3ANの10 Kにおける自発体積磁歪ωs.(Spontaneous volume magnetostriction at10 K for stoichiometric Mn 3AN.)Mn 3CuN自体は自発体積磁歪をもたないが, Cuの一部を別の元素で少量(~10-15%)置換することにより,顕著な自発体積磁歪を示すことから,潜在的なωsの値としてA=Cu 0.85Ge 0.15の値を参考値として加えた.重要な実験事実はωsとAのd電子数の明かな相関である.Aについて周期律表左から右にいくに従いωsが大きくなり, 4d系列に比べて3d系列が大きい傾向が読みとれる.これまでの議論32)では,磁気転移温度T*とAサイト原子の価電子数n v(s, p電子数)との相関から,物理状態を決めるパラメーターとしてn vの重要性が認識されてきた.しかし,ωsはT*と,したがってn vとも,相関していない.電子構造の観点から言えば,この実験事実は,フェルミ準位からA原子のdバンドが離れていくにつれてωsが大きくなることを意味する.これまで顧みられてこなかった電子構造に対するA原子のd軌道の影響を考察すべきである.Aの価電子数n vの観点でMn 3ANを見たとき,上述の磁気体積効果を示す立方晶反強磁性相はn v=2, 3で出現する. n vがこれより小さい(n v=1:A=Cu),あるいは大きい(n v=4:A=Ge, Sn;n v=5:A=As, Sb)場合は,構造が立方晶から歪み,磁気構造も異なる. 32)磁気体積効果も発現しない.5.立方晶反強磁性と磁気体積効果次に,この物質群では「立方晶反強磁性」が磁気体積効果を発現するための要件となっているという,前節での示唆がどの程度確からしいか検証する.まず,体積変化のブロードニングにより巨大負熱膨張を発現する2つのドーパントA=GeとSnについて見ていく.その線熱膨張を図2に示す.磁化については誌面の都合により割愛した.例えば文献33)に示されているので,参照いただきたい. GeとSnのドーピング効果は定性的には似ており,(1)x=0.1~0.15で立方晶反強磁性になり,自発体積磁歪を発現,(2)x増加とともに, T N上昇,(3)日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)図5 Mn 3Cu 1?xA xNのX線回折ピーク(200).(The(200)peak in the X-ray diffraction measurement forMn 3Cu 1?xA xN.)A=Ge(a), Ga(b), Ag(c). A=GaとAgでは, 10 Kでピークが2つに分裂しており,この温度で構造が正方晶に歪んでいることがわかる.x増加とともに体積変化がブロードになり, x=0.5付近で巨大な負熱膨張が出現,(4)さらなるドーピングによりωs減少し,(5)x=0.9付近でMn 3GeNもしくはMn 3SnNと同じ構造・磁性となり磁気体積効果が消失,とまとめられる. Ge, Sn以外のドーパントAについても,おおむね置換量が増すとT*は上昇し,ついにはもう一方の化学量論組成Mn 3AN(x=1)の磁気転移温度T*へつながる. T*のA依存性は, Aの価電子数n vにT*が比例するとして,定性的に理解される. 32)いずれもx=0.1~0.3程度で?L/Lに異常が現れ,低温で体積が大きくなる磁気体積効果を発現する点が重要である. A=Ni, Agではさらに低温で明瞭なreentrantがあり, T 1*=T Nで大きくなった体積が,より低温T 2*でもう一度小さくなる.?L/Lに異常が現れ,低温で体積が大きくなるのに要するドーパント量xはAによってばらつきがあるが,最も印象的で重要な点は, Mn 3Cu 1?xA xN固溶系において,磁気体積効果の発現と立方晶の回復との間に一致が見られることである.これをx=0.15のドープ量で検証する(図1,橙335