ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

クライオストップトフローX線溶液散乱法を用いたタンパク質フォールディング初期中間体の構造解析図6フォールディング初期中間体中のαヘリックス含量とHelix 2で求めたαヘリックスの存在割合の相関. 10)(Relation betweenα-helix contents in the kineticfolding intermediate andα-helix fractions of variousproteins estimated by using a Helix 2 program.)タンパク質:Src SH3, Fyn SH3,アポミオグロビン,BLG, ELG,ユビキチン, RNase A,λ5-85リプレッサー,リゾチーム, FHAドメイン,R:相関係数.図7Src SH3ドメインタンパク質フォールディング初期中間体の構造予測. GASBORによる. 12)(Predictedっていたことから,この中間体は,球状化しており,いわゆる“molten globule”状態とみなすことができた.そして5 s後には完全にnativeな構造に戻った.structure of the early intermediate on Src SH3 domainprotein folding, calculated by GASBOR program.)その後われわれは,その他のβ構造を主として含むタンパク質, 10)αヘリックスを主として含むタンパク質,両者を含むタンパク質などを種々調べた.その結果,調べたどのタンパク質の場合も,初期中間体の形成が見られ,αヘリックスの生成を必ず伴っていることがわかった.このときのαヘリックスの含量は,通常使われている二次構造予測プログラムでは再現性に乏しかったが,唯一Baldwinらが開発したHelix 2のプログラム11)だけが,観測で得られた初期中間体中のαヘリックスの含量とヘリックスコイル転移理論で予測されるαヘリックスの存在割合の間で明瞭な相関性を示した(図6参照). 5),10) Helix 2は,近隣間の相互作用だけを考慮してαヘリックス含量の予測をしていることから,初期にできる中間体の構造は,近距離力のみで生成されるαヘリックスの含量と密接な関係があることが示唆された.タを解析した.タンパク質のX線溶液散乱データから溶液構造を求めるプログラムは,いくつか開発されてきている.そのうちの1つでSvergunらが開発したGASBOR 12)によりSrc SH3ドメインタンパク質のフォールディング初期中間体の構造を予測計算した.結果を図7に示す.一方,われわれはKojima(東京薬科大)らと共同開発してきたプログラム(SAXS-MD)を用いてこの中間体の構造を計算した. 13)このプログラムは, X線散乱曲線を束縛条件として,分子動力学的計算(MD)を行うもので,それまでは結晶解析で得られた構造と溶液構造との違いを研究する場合などに使われていたが,今回フォールディング中間体の構造予測に初めてこのプログラムを使ってみたところ,容易に収束することがわかった.計算結果には,円偏光二色性から得られるαヘリックス含量も考慮されており,紫外円偏光二色性, X線散乱の実験結果をともに満た3.3Src SH3ドメインタンパク質フォールディングの初期中間体の構造すものになっている.図8a, bにその結果を示す.図8cには初期中間体の観測散乱曲線とSAXS-MD法で求めたそれでは,αヘリックスを含み,ストップトフロー装置の不感時間内にできる中間体はどのような構造をしているのだろうか.それを調べるためにクライオX線溶液散乱デー最適構造からの散乱曲線の比較を示した.リボンモデルでは,生じたαヘリックスがそれぞれ独立に存在しているように見えるが,充填モデルではこれらが互いに接触して注1ロバスト(robust):通常,タフな,強い,と訳される.ここでは,温度や添加不凍液の濃度などによらず,中間体の存在量が一定であり,準安定な状態であることを表す言葉として,使用している.おり, van der Waals結合をしていることがわかる.それぞれの部分でヘリックスができたり壊れたりしながら,たまたま互いに近づいて接触することにより,準安定なフォールディングの核となることが予想される.日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)275