ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

クライオストップトフローX線溶液散乱法を用いたタンパク質フォールディング初期中間体の構造解析図2ユビキチンの立体構造(PDB code:1 ubqを一部改変).(Structure of ubiquitin(PDB code:1 ubq),modified.)青色;βシート構造,赤色;αヘリックス部分を表す.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.図3aの蛍光強度の時間経過の測定では,“initial”とフォールディングの始まる時点の蛍光強度が同じであり,それから“final”に向かうことから,このタンパク質のフォールディングには測定している時間領域より速い反応はなく,ほかの報告にあるように,変性→nativeな状態への2状態遷移であることが示唆されたように見える.ところが図3bの紫外円偏光二色性の測定結果は,まったく別の解釈をする必要を示している.すなわち, 222 nmで測定した紫外円偏光二色性の値(θ222)は,混合直後大きな負の値を示し,それから上昇していっている.紫外円偏光二色性は,αヘリックスができているときにθ222で負の値を示すので,この図は,αヘリックスの含量が変性剤希釈直後に大きな値を示し,それから最終の値に向かって減っていくことを表している.すなわち,この結果は,ユビキチンのフォールディングは2状態遷移などではなく,まずαヘリックスの多い中間体を形成し,それからnativeな状態に遷移していくことを明確に示している.蛍光測定の結果が速い中間体の形成を示さなかったのは,たまたまこの変性状態と初期中間体の蛍光強度の値が同じであったにすぎないと解釈される. X線溶液散乱の測定結果は,さらなる付加情報を与えた.初期にできる中間体の散乱強度データのGuinierプロット(ln[I(h)]vs h 2)(h=4πsinθ/λ,2θ散乱角,λ;X線の波長)の勾配から求めた慣性半径(R g;分子の重心の周りの電子密度の拡がりの尺度)は図3cに示すとおり,変性状態のものよりずっと小さく, nativeな状態のそれに近いが,やや大きかった.この中間体の散乱曲日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)図3 45%エティレングリコール存在下, ?20℃でのユビキチンのフォールディング.(Folding of ubiquitinin the presence of 45%ethylene glycol as anantifreeze, at ?20℃.)(a)蛍光(Fluorescence)の時間経過,(b)紫外円偏光二色性(Circular dichroism)の時間経過,(c)X線溶液散乱から求めた慣性半径(Rg)(Radius of gyration from X-ray scattering)の時間経過.線のKratkyプロット(h 2 I(h)vs h)をとると,ピークをもつ球状粒子の示すプロフィールとなったことから,この中間体は,球状化しており,いわゆる“molten globule”状態8)とみなすことができた.このようなフォールディング初期中間体は,すでにβbarrel構造からなるβラクトグロブリンの研究から,Kuwajimaらが見出していた. 9)含まれるαヘリックスの含量はタンパク質によって異なるが,タンパク質フォールディング初期中間体は,「αヘリックスを含む球状化したmolten globule状態のものである」,ことは共通項であると言える.同じような初期中間体はアポミオグロビンのフォールディングでも見られた.しかしここまでの結果については,βラクトグロブリンは例外で,ちゃんとした典型的なβ構造からなるタンパク質なら,αヘリックスを含まない初期中間体を作るのではないかと考える人たちも多か273