ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

クリスタリットコアホール効果Core-Hole Effect固体中の内殻電子が非占有状態(伝導帯)へ励起されると,内殻軌道に正孔が生じる.この内殻軌道の正孔と伝導帯へ励起された電子が相互作用することを,コアホール効果という.一般的に内殻電子励起スペクトルは,伝導帯状態密度(DOS)分布に対応するとされているが,より正確には内殻軌道に正孔が生じた状態(励起状態)での伝導帯DOS分布に対応していると解釈されている.よって内殻電子励起スペクトルのシミュレーションは,基底状態の電子状態計算を行っても実験を再現することはできず,内殻軌道に正孔を導入した励起状態の電子状態計算を行う必要がある.この効果は,金属材料よりも絶縁材料においてより顕著に表れる.(東北大学多元物質科学研究所佐藤庸平)モノクロメータMonochromator光子や粒子線などの照射プローブのエネルギーを単色化する装置.非弾性散乱測定で得られるスペクトルのエネルギー分解能は,照射プローブのエネルギー分布幅に依存する.そのため,光源から出てくるプローブのエネルギー幅よりも高エネルギー分解能の測定が必要な場合,モノクロメータを用いる必要がある.ほとんどのモノクロメータは,エネルギーフィルターとエネルギー選択スリットで構成されている.フィルターを通ってエネルギー分散されたプローブを選択スリットに通過させることで,スリット幅に応じたエネルギー幅に制限することができ,単色化された照射プローブを得ることができる.(東北大学多元物質科学研究所佐藤庸平)ウィーンフィルターWien FilterWilhelm Wienによって考案された荷電粒子のエネルギーフィルター.このエネルギーフィルター内では,クーロン力とローレンツ力が荷電粒子の進行方向に対して垂直に,なおかつお互いの力が逆向きに作用するように電場・磁場が印加されている.クーロン力とローレンツ力が釣り合う速度の荷電粒子はフィルター内を直進し(ウィーン条件),ウィーン条件から外れた速度の荷電粒子は進行方向から逸れて分散することで,エネルギーフィルターとしての機能をもつ.分析電子顕微鏡のモノクロメータを構成するエネルギーフィルターとして採用されている.もともとは電子の質量分析のために考案されたものであり,荷電粒子の質量分析装置としても用いられている.(東北大学多元物質科学研究所佐藤庸平)スピネル型硫化物Spinel Sulfideスピネル型構造を形成する硫化物の一般的な呼び方.スピネル型構造をもつ物質はAB 2X 4の組成式をもち, A, Bには遷移金属イオンなどの陽イオン, XにはOやS, SeやTeなどの陰イオンが占有する.その陰イオンがX=Sの場合をスピネル型硫化物と呼ぶ.スピネル型硫化物の特徴としてはスピネル型酸化物X=Oに比べ,陰イオンの半径が大きいことから共有結合性,金属結合性が強く電気伝導性が高いものが多い.(大阪府立大学大学院理学系研究科河口彰吾)混合原子価Mixed Valence純物質において同一元素の原子が複数の酸化数をとる状態.有名なものではマグネタイトFe 3O 4が挙げられる.Fe 3O 4は逆スピネル型構造を形成し, AサイトにFe 3+イオン, BサイトにはFe 2+とFe 3+イオンが占有している.この場合, BサイトのFe原子が混合原子価状態となり,平均の酸化数はFe 2.5+と表される.混合原子価状態をもつ物質はエネルギーバンドが電子ですべて埋め尽くされることがないので,通常は金属状態となる.しかし,電子間の相互作用が重要になる低温領域では,電子の多いサイトと少ないサイトが規則的に配列することがある.この現象は電荷整列と呼ばれ,一般的には結晶構造の変化を伴う.(大阪府立大学大学院理学系研究科河口彰吾)超空間群Superspace-Group通常の三次元結晶より高次元の対称性を有する高次元結晶に用いる対称操作の記述法で,線状点集合の分布からなる構造を高次元空間上で,並進させたり回転させたりして構造自身と重ね合わせる対称操作の集合のことを指す.超空間群により,非整合の変調構造をもつ結晶や複合結晶,準結晶の対称性を記述することができる.通常の三次元空間群は230種存在するが,四次元超空間群は775種類あり,現在において六次元までの超空間群の表が与えられている(P. M. De wolff, T. Janssen and A. Janner: ActaCryst. A37 625 (1980), A. Yamamoto, T. Janssen, A. Jannerand P. M. De wolff: Acta Cryst. A41, 528 (1985), H. T.Stokes, B. J. Campbell and S. van Smaalen: Acta Cryst.A67, 45 (2011)).(大阪府立大学大学院理学系研究科河口彰吾)318日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)