ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

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概要

日本結晶学会誌Vol55No5

クリスタリットタンパク質のフォールディングProtein Foldingタンパク質はアミノ酸のつながりからなっている.Anfinsenは1972年にRNase Tを尿素(変性剤)で変性させ,その後変性剤を取り除くと,もとの立体構造に戻ることを示し,立体構造を決めるのはアミノ酸の配列だけであることを示した(Anfinsenのドグマ). 1) Levinthalは, 1969年にありうるコンフォメーションをランダムに選んでいくとすると,天文学的時間がかかることから,タンパク質のフォールディングには道筋があることを示唆した. 2)この道筋は, 1本の決まった道筋というより,エネルギーファネルを正しい構造に向かって落ちていくといったイメージで説明されるようになった.今回会誌に示した仮説は,この最初の過程でαへリックスの多い初期中間体ができるというもので,その意味ではKarplusのいうようにフォールディングの最初の過程は,拡散律速で形成される中間体の形成ということになる.大部分のタンパク質は,その機能を担うために,立体構造が定まっていることが必要であるが,同時にまったく揺らぎのない状態では機能を担えない.しかし近年,通常はフォールドしておらず,機能時だけフォールドするdisfolded proteinが多く発見され,疾病との関連が議論されている.1)C. Anfinsen: Biochem. J. 128 (4), 737 (1972). PMC 1173893.PMID 4565129.2)C. Levinthal: J. Chem. Phys. 65, 44 (1968).(立命館大学SRセンター,名古屋大学シンクロトロン光研究センター木原裕)SH3ドメインSH3 DomainSH3ドメインは,タンパク質のプロリンに富む領域と特異的に結合して,タンパク質-タンパク質間の相互作用を制御する機能ドメインであり,細胞内シグナル伝達に関与するタンパク質に広く見出されている.Src相同3ドメインは,アミノ酸約60残基からなるドメインで,約300種がある.その立体構造は, 5ないし6のβシートを含み,そのうち2組が反平行である.多くのタンパク質のSH3を結合するエピトープは,次のような短いモチーフからなるコンセンサス配列をもっている.-X-P-p-X-P-1 2 3 4 5ここで, 1番目と4番目の残基は,脂肪族アミノ酸で, 2番目と5番目は常に(3番目は多くの場合)プロリンである.この配列部分がSH3ドメインの疎水ポケットに結合する.最近の報告によると,核となるコンセンサスモチーフ(Rx-x-K)に結合するSH3ドメインも報告されている.その例としては, Grb2やMonaのようなアダプタータンパク質のC端のSH3ドメインが挙げられる.(立命館大学SRセンター,名古屋大学シンクロトロン光研究センター木原裕)モルテングロビュールMolten Globuleモルテングロビュール(MG)は,和田,大串らにより1983年にシトクロムcについて初めて提唱された概念である. 1)その後,和田,須貝, Ptitsynらが協議し, molten globuleという名前で統一されるに至った.タンパク質は,その多くが決まった立体構造(N)と主鎖がほどけて変性した状態(U)とをとるが,それとは別にpH,塩濃度,温度などにより,二次構造は保持するが,側鎖が自由に動く第三の熱力学的安定状態をとる.これをMGと呼ぶ. N⇔MG,MG⇔Uの転移は相転移であると言われているが,一次か二次かについては,意見が分かれている. MGは,球状化しているため, X線溶液散乱の結果をKratky plotで表すときにNと同様だがやや値の低い極大値を示すことで知られている. 2)MGは,タンパク質が変性した状態(U)からフォールドする途中でできる準安定な中間状態としても認識されている.木原は,測定したタンパク質のすべてで,フォールディングの初期に,αへリックスを含むコアを観測し,それらがMGであることを示した.フォールディング中間体のMGと, pH,塩濃度などによりできる平衡中間体のMGとがともに観測されているβ-lactoglobulin,α-lactoalubmin, src SH3ドメインなどでは,紫外円偏光二色性, X線溶液散乱で求めた慣性半径などの指標でみる限り,両者に有意な差はないと言われている.1)M. Ohgushi and A. Wada: FEBS Lett. 164, 21 (1983).2)M. Kataoka, K. Kuwajima, F. Tokunaga and Y. Goto: ProteinScience 6, 422 (1997).(立命館大学SRセンター,名古屋大学シンクロトロン光研究センター木原裕)316日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)