ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

日本結晶学会誌55,271-277(2013)総合報告クライオストップトフローX線溶液散乱法を用いたタンパク質フォールディング初期中間体の構造解析立命館大学SRセンター,名古屋大学シンクロトロン光研究センター,日ノ本学園,姫路日ノ本短期大学木原裕関西医科大学物理教室TAOヘルスライフファーマ㈱,先端医療振興財団新庄正路松村義隆Hiroshi KIHARA, Masaji SHINJO and Yoshitaka MATSUMURA: Structural Analysison the Early Intermediates of Protein Folding by X-Ray Solution Scattering with aCryo-Stopped-Flow MethodEarly events of protein folding have been investigated by a cryo-stopped-flow methodwith ultraviolet circular dichroism, fluorescence and X-ray solution scattering as probes. Wefound thatα-helices were formed very rapidly as a folding nucleus within the dead-time ofthe stopped-flow apparatus. In the case of ubiquitin containingα-helix andβ-structure, thefolding took place viaα-helix-rich intermediate, contrary to the previous hypothesis of 2-statetransition. This was also the case of Src SH3 domain protein containing onlyβ-structure andother proteins so far investigated. The intermediate structure of Src SH3 domain protein foldingwas calculated by using a SAXS-MD program.In the studies of three homologous SH3 domain proteins (Src, Fyn and PI3K), we foundthat these proteins are folded via a different folding pathways.1.はじめにタンパク質のフォールディングには道筋がある.タンパク質のフォールディングの構成要素の律速過程には,最初のポリペプチド鎖同士の衝突,αヘリックスの形成,βヘアピンの形成などがあるが,これらはいずれも10 ns, 20~200 ns,数μsと速い過程である. 1)-4)タンパク質のフォールディングには主に2つの過程がある.主に主鎖の構造が関与する速い過程(物理的過程といってもよい)と,続いて起こる機能に関連した側鎖が関与する構造形成の過程(生物的過程といってもよい)である.フォールディングの初期過程を研究するのには,主に温度ジャンプ法が使われてきた.この方法は,基本的に平衡のずれを起こさせて新しい平衡へ移行する過程を測定する.われわれはタンパク質を完全に変性した状態(アンフォールド)から,フォールドさせるのに,変性剤で変性させた状態から,変性剤を希釈させる方法を利用してきた.変性剤濃度希釈ジャンプ法と呼ばれるもので,実際にはストップトフロー法を用いる(図1参照).しかしストップトフロー法は不感時間があるため一般にあまり速い反応を測ることができない.さらにわれわれが行おうとしている変性剤濃度希釈法は,数モルの変性剤を正しく希釈する必要があり,通常のストップトフロー装置では不完全日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)な希釈しかできないことが多い.それを克服するために,われわれは特別に設計したミキサーを開発し,必要に応じて反応を遅くさせるために,不凍液存在下で零度以下(サブゼロ温度)でクライオ実験を行った.一般的に言えるというわけではないが,例えばβラクトグロブリンのフォールディング過程では,室温での速度に比べて, ?28℃(45%エチレングリコール存在下)では,速度が10 ?3~10 ?4倍ぐらい遅くなる.測定のプローブとしては,αヘリックスの生成反応を観る紫外円偏光二色性,立体構造の情報を表す芳香族アミノ酸による蛍光強度の変化,タンパク質の構造情報を与えるX線溶液散乱を用いて,われわれは以下のような実験を行った.測定にあたっては,変性タンパク質を緩衝液で希釈する反応の追跡だけでなく,タンパク質を変性剤と混合する実験(これにより,タンパク質が変性した状態でのそれぞれの物理量を得ることができる.われわれはこれを“initial”と呼んでいる),フォールディング反応が終わってからしばらく経ったときの物理量の測定(これは反応が終わってから,通常5~30分後に物理量を測定する.観測していた時間領域より遅い反応があったときにその変化を検出できる.われわれはこれを“final”と呼んでいる),の2つの測定を付加し,これらセットでフォールディング反応の解釈を行っている.271