ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

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概要

日本結晶学会誌Vol55No5

非整合な構造をもつスピネル化合物CuV 2S 4の結晶構造解析している.このように,多くのV2原子がそのV1-V1二量体に接近しており,結果的に,三量体や四量体のようなVクラスターが数多く非整合構造内に存在することがこのV-V間の結合距離のt依存性からわかる.さらに,このようなV-クラスターが密に形成されている空間と,疎になった空間が非整合構造内で存在する.例えばt=0, 1/4,1/2, 3/4近傍の値をとる空間では四量体や三量体のようなクラスターが密に形成されているが, t=1/8, 3/8, 5/8,7/8近傍の値をとる空間ではそのようなクラスターは形成されない.このようにCuV 2S 4が示すT s1の相転移には, V原子が大きく関与しており, Vクラスターの疎密がCDW転移と大きく関係していることが示唆される.このようなクラスターの疎密が形成される現象はほかのスピネル化合物では筆者らが知る限りでは報告されておらず, CDW転移に伴ったVクラスターの形成は興味深い現象である.5.まとめと展望図4(a)70 Kの平均構造におけるc軸方向からの投影図.V原子のみ示している.なお,原子の大きさの違いはz座標の違いを示している.(b-d)V-V間の結合距離におけるt依存性, V1-V1間(b), V1-V2間(c),V2-V2間(d).点線は平均構造におけるV-V間の結合距離を示している.((a)Projection of theaverage crystal structure of CuV 2S 4 on ab-plane.(b-d)V-V bond lengths and modulation functionas a function of t for V atoms.)となり, V1-V1間での結合距離と同等の変化を示している.一方で,変調方向であるb軸に沿ったV2-V2間の結合距離は3.30(7)A~3.65(7)Aであり,ほかの変調構造に対するV1-V1, V1-V2間の結合距離の変化量に比べ, V2-V2間の結合距離の変化量は小さい.これらV-V間の結合距離において特徴的な事象は, V1a-V2a間の結合距離がV1a-V1bの結合距離と同じt依存性を示していることである.これは, V1a-V1b間の結合が短い(例えば, t=1/4, 3/4近傍の領域)とき, V1a-V2aの結合距離もまた短いことを意味している.つまり, V1a, V1b,V2aの原子が互いに接近し,三量体のようなクラスターを形成していると考えられる.さらに, tが1/2近傍の領域においては, V1aとV1c原子が二量体を形成し, V2dとV2e原子がその二量体に近づいていることが図4bとcからわかる.すなわち,これら4つの原子V1a, V1c, V2d,V2eが互いに接近し,四量体のようなVクラスターを形成日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)本稿では,スピネル化合物の非整合構造を考慮した構造解析とその結果について紹介した. CuV 2S 4が示すT s1における相転移はV原子が主に起因しており,その構造相転移においてV-V間の結合長が変化し, Vクラスターを形成する.また,そのVクラスターの疎密が変調方向に沿って形成されていることが明らかになり,このようなVクラスターの形成が,磁性や電気抵抗率などの物性と深く関係していると示唆される.一方で, CuV 2S 4が示すCDW転移に伴って,なぜこのようなVクラスターが形成されるのか,また,なぜ整合構造を形成せず非整合構造を形成するのかなど, CuV 2S 4のCDWの起源やT t2以下のCDW相の詳細に関して未解決な問題が残されている.しかし,本研究でCDW相の結晶構造の詳細を明らかにしたことにより, CuV 2S 4の低温下における電子構造の計算が可能となりCDW転移の起源に関してより詳細な情報が得られると期待できる.さらに,高分解能電子顕微鏡や,X線吸収微細構造(EXAFS)などの追加実験を行い,本研究で明らかにした結晶構造と照らし合わせることで,CDW相の起源やT s2以下のCDW相の詳細を明らかにすることが可能になると期待される.謝辞本研究は理化学研究所の高田昌樹博士および加藤健一博士,高輝度光科学研究センターの金廷恩博士との共同研究の成果である.放射光粉末回折実験は,高輝度光科学研究センターの実験課題(Proposal Nos.2010B0084,2011A0084)により行われた.また本研究は科学研究費補助金の支援を受けて実施されたものである.最後に,実験や解析,議論にご協力いただいた多くの方々に感謝いたします.313