ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

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概要

日本結晶学会誌Vol55No5

非整合な構造をもつスピネル化合物CuV 2S 4の結晶構造解析構造は超空間群Imm2(0β0)をもつ斜方晶系であると結論付けた.精密化された格子定数はa=6.9477(1)A, b=6.9416(1)A, c=9.8011(1)A,変調ベクトルはq=0.7391(5)b*であり,すべての超格子反射はm=±1の次元で指数を付けることができた.その斜方晶系における超格子反射に対する指数を図2aに示す.なお,格子の取り換えにより新しい斜方晶系の単位格子ベクトルa, b,cと変調ベクトルqは,擬立方晶系における格子ベクトル11a c, b c, c cで表すと, a=(a c-b c), b=(a c+b c), c=22c c, q=q c(a* c+b* c)=qb*(q c, q~3/4)となる.平均(基本)構造からのそれぞれの原子位置の変位を決定するために原子の変位変調を考慮したリートベルト解析24)-27)を行った.この解析において,変調はb軸に沿った一次元の変調であるため,(3+1)次元の超空間において,三次元空間における原子座標xμ, yμ, zμに加え,四次元空間の原子座標x4を導入した.なお,三次元空間の原子座標は平均構造におけるμ番目の原子位置であり,x4はx4 = ?μx +μy +μq ( a b z c)+t(1)のように定義される.ここで, tは変調関数の初期位相に相当する変数である. 24),25)なお,変調方向はb軸方向であるので, x4はx 4=q yμ+t(q~3/4)となる.次に,μ番目サイトの原子変位の大きさと方向を表す変調関数u(μx 4)を導入した.この変調関数u(μx 4)はそれぞれa, b, c軸方向の成分(x 4),(x 4),(x 4)をもち,波数ベクトルqに対応した周期性を有する.つまり, u(μx 4)はx 4に関する周期関数であり,(2)のようにフーリエ級数として表すことができる.ここで,A nμμμμu x∑Ansin 2πnx Bncos 2πnxとB nμu xμ∞( )= ( )+ ( )4 4 4n=1はフーリエ級数の係数であり,最小二乗法により精密化されるパラメータである.また,μ番目サイトに対する実際の原子位置は( ) + ( + ( )) + ( + ( ))μμμμμμμx 4 y 4 z 4x x u x a y u x b z u x c(3)= + ( )u yμu zμ[ ]で与えられる.ここで,実際に最小二乗法で精密化するパラメータは式(2)のフーリエ展開級数と波数ベクトルの大きさq cとなる.また,式(2)におけるnは整数であり,変調関数における平面波の数に対応する. nを大きくすれば構造パラメータが格段に増加するため,解を収束させることが困難となることから,解析を行う際には注意が必要である. CuV 2S 4ではCuサイトに対してはn=1, VとSサイトに対してはn=2までの平面波の足し合わせでフィッティングした.図2aに非整合構造を考慮したリートベルト解析の結果を示す.基本反射および超格子反射の観測値と計算値が十分に一致しており,信頼度因子R wpとR Iも日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)それぞれ4.52%, 1.82%と十分に低い値を示している.なお,構造パラメータの詳細は原著論文を参照されたい. 31),32)4.4 V原子の平均構造からの原子変位それぞれの原子サイトに対する平均構造からの原子変位を計算した結果, Cuの最大の変位は0.16 A程度であるのに対し, Vは0.47 Aと3倍近く大きいことがわかった.この結果は, V原子がT s1における相転移に大きく関与していることを示唆しており,過去のバンド計算や光電子分光の実験結果と一致している. 13)-15)図3aに70 KにおけるCuV 2S 4の平均構造を示す(CuとS原子は省いている).空間群Imm2において, V原子については結晶学的に非等価な2つのサイトV1(4c)とV2(4d)が存在する.図3b, cはそのV1, V2サイトにおけるV原子の変調関数u x, u y, u zを横軸tに対してプロットしたものである. V1サイトのV原子は変調に対してx, z方向に大きく変位しており, t=0, 1/4, 1/2, 3/4の領域で最大値または最小値をもつことがわかる.一方でy方向に関してはほとんど変位していない. V2サイトのV原子はy, z方向に大きな原子変位が見られるが, x方向への変位は0である.次に,図3b, cに示すu(t)のグラフから,μ実際の結晶構造におけるV原子の変位がどのようになっているのかについて考える.非整合構造をもつ場合,有限の大きさの単位格子をとることができないため,すべての原子位置や原子間の結合距離を記述することはできないが, u(t)のμグラフを拡張してx 4に対してそれらをプロットすることにより,非整合構造内における原子変位を完全に記述することができる.例として,ある単位格子(図3dのCell #1)のy=0の位置における初期位相tの値を0にとったときの, V1サイトのa軸に沿った変位を考えてみる.なお, V1サイトは結晶学的に等しい原子位置が単位格子内に4個(図3dのV1(1), V1(2), V1(3), V1(4))存在するが,図3bに示した(t)はV1(1)原子に対するものであることに注意する.このとき,式(1)よりx 4はx 4=qyV1と表すことができるため,図3bに示した(t)のグラフを用いて,(x 4)=(qyV1)のグラフを図3eのように描くことができる.まず,この図を基にV1(1)の変位を考える. Cell #1のV1(1)については, y座標はy=0であるため,その変位は,(0)~+0.02 Aであることがわかる.次に, 1つ隣の単位格子(Cell #2)におけるV1(1)のy座標はCell #1を基準とするとy=1であるため,その変位はu xV1u xV1u xV1u xV1u xV1(q)=(0.7391)~-0.03 Aとなる.同様に, Cell #3u xV1u xV1u xV1u xV1u xV1のV1(1)の変位は(2q)=(1.4782)=(0.4782)~+0.035 Aとなる. V1(2)の変位については, a軸に垂直な鏡映面が0, y, zと1/2, y, zに存在するため, V1(1)の変位に対して逆位相となる.さらに, V1(3)の変位については,体心格子の並進対称性の要請から, V1(2)の変位と同じであることに注意しなければならない.このように,各サイトにおける原子変位のt依存性から,非整合構造内で311u zμ