ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

河口彰吾,石橋広記,久保田佳基れば, a c=b c~9.82 A, c c~9.80 A程度となる.このようにCuV 2S 4が示す90 Kにおける構造転移に起因する格子歪みが非常に小さいため(特に, a c軸とb c軸),基本ブラッグ反射のピーク分裂の情報のみでは, CDW相の結晶系が正方晶か斜方晶系かを判断することが難しいと考えられた.4.3非整合周期に対する結晶構造解析われわれはさらにCDW相である70 Kにおける粉末回折パターンにおいて, Flemingらの単結晶X線回折実験による報告11)と一致するような弱い超格子反射を観測した(図2a).ここで,結晶構造が波数(変調)ベクトルqで表される非整合な一次元の変調周期を有するとき,すべてのブラッグ反射は4つの整数hklmにより指数を付けることが可能である. 26),27)その逆格子ベクトルHは,基本単位格子における逆格子単位ベクトルa*, b*, c*を用いてH=ha*+kb*+lc*+mqと表現される.また, hkl0反射は基本ブラッグ反射に対応し, hklm(m≠0)反射はm次の超格子反射に対応する.本研究においては,擬立方晶軸の本逆格子ベクトルa c*, b c*, c c*,と波数ベクトルの大きさが図2(a)150 Kと70 Kにおけるリートベルト解析の結果,点と実線はそれぞれ観測強度と計算強度を示している.(b)800反射の温度依存性.((a)Partof Rietveld fitting at 150 K and 70 K.(b)X-raydiffraction pattern around the 800 cubic Bragg peaksat 150 K and 70 K.)の温度ヒステリシスをもつことと,比熱のピークの形状がspike状であることを考慮すれば, T s2における相転移は一次相転移であると示唆される.このようにわれわれが作製した試料はT s1とT s2の両方において相転移を示す良質の試料であると言える.また, 15 Kより低温下で磁化率がわずかに上昇しているのはわずかな常磁性不純物によるものであると考えられる.4.2放射光粉末回折パターン図2aに,放射光粉末回折実験で得られた粉末X線回折パターンを示す.粉末回折パターンにより150 KにおけるCuV 2S 4が正スピネル型構造をもつことを確認した.また,リートベルト解析により得られたその温度領域の格子定数はa=9.8203(1)Aである.その他の150 KにおけるCuV 2S 4の構造パラメータは原著論文を参照されたい. 31),32)図2bは立方晶系の800反射の回折プロファイルである.70 Kでの800反射は2本に分裂しており,これは, CuV 2S 4が90 Kで過去の報告16)と同様に,立方晶系から正方晶系または斜方晶系へと構造相転移を起こしていることを意味する. 70 Kの格子定数は擬立方晶軸a c, b c, c cを用い3q c~|a c*+b c*|をもつ逆格子ベクトルH=ha c*+kb c*+4lc c*+mq cを選ぶことにより,観測された超格子反射に対して指数を付けることができた.変調方向は立方晶の[110]方向であり,これはFlemingらによって報告された変調方向11)と一致している.まずわれわれは, 70 KにおけるCuV 2S 4の非整合構造を考慮した結晶構造を決定するために初期構造モデルを構築した. T s1以下の結晶系は基本反射の分裂と超格子反射のピーク位置を考慮すれば,正方晶系またはそれより低い対称性を有し,[110]方向に沿った非整合な長周期構造を形成していると考えられる.しかし,正方晶系ではc軸に平行な4回回転軸が必ず存在するために[110]方向に変調構造をもてない.これは[110]方向に変調が存在すれば,4回回転の対称操作により[1 _ 10]方向にも変調が存在しなくてはならないためであり,変調方向の1軸性を保てないからである.したがって, T s1以下の結晶系はa軸とb軸が非常に近い値をもつ斜方晶系が妥当であると考えた.次に,非整合周期をもつような構造に対応した斜方晶系の超空間群を絞り込んだ.なお,超空間群の概要に関してはほかの結晶学会誌記事にて詳しく解説されているのでそちらを参照していただきたい. 26) T s1の相転移は上記で述べたとおり二次相転移であることがわかっているのでFd3 _ mの部分群であるImma, I2 12 12 1, Ima2, Imm2を候補として考えた.これらの空間群において変調方向を考慮して超空間群を導出し,それぞれの超空間群においてLe Bail解析を行った.その結果, Imm2(0β0)の超空間群の場合のみ,観測されたすべての超格子反射のピーク位置の指数付けを行うことができた.したがって, 70 Kにおける初期310日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)