ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

佐藤庸平,寺内正己,居波渉,吉朝朗図6 h-DIAとc-DIAの内殻電子励起スペクトル(1s→C.B.).(Core electron excitation spectra of h-DIA and c-DIA.)それぞれエネルギー範囲(a)280~340 eV,(b)285~296 eVで表示したもの.c-DIAのスペクトルでは,エキシトンピークをガウス関数,ほかのスペクトル構造をパラボリックバンドモデルを用いてフィッティングを行った(点線). 15)ギー側のスペクトル強度を,指数関数AE ?b lossを用いて外装し(E lossはエネルギーロス値, A, bはフィッティングパラメータ), 0~400 eVの範囲で積分を行った.図5はEELSスペクトルから導出した(a)h-DIA,(b)c-DIAの損失関数と誘電関数である.ω=0のh-DIAの誘電関数(誘電率)は6.6であり, c-DIAの誘電率5.7よりも値が大きい.これはh-DIAのバンドギャップ(4.2 eV)がc-DIA(5.5 eV)に比べて小さいことに起因する.誘電率からh-DIAの屈折率は2.6と見積もることができた.誘電関数の虚数部ε2の強度立ち上がりは4.2 eVでありバンドギャップエネルギーに対応する.さらにε2のピーク構造が5.0 eV, 7.2 eV, 12.3 eV, 23.2 eVに観測され, c-DIAとは異なるバンド間遷移エネルギーが誘起されることがわかった.理論的に計算されたバンド図との比較を行った.ここでバンド計算はSalehpourらによって報告されたものを念頭に対応付けを行った(バンド図の詳細は文献7)を参照のこと). h-DIAの誘電関数虚数部ε2の立ち上がり4.2 eV+は,価電子帯トップのΓ5点から伝導帯底のK 2点へのバンド間遷移に対応し,間接ギャップであることがわかる.12.3 eVの強いバンド間遷移は112 _ 0方向(Γ→K)の平行バンド間の遷移に起因すると考えられる. 5.0 eVと7.2 eVのバンド間遷移は,それぞれΓ+5→Γ? 2 , M V.B.top→M C.B.bottom間の遷移に対応していると考えられる. h-DIAの電子構造計算のほとんどが,間接バンドギャップ4.2 eVと垂直バンド間遷移5.0 eVはc-DIAのものよりも小さい傾向を報告している.本研究は,この傾向とよい一致を示す.図6はh-DIAとc-DIAから測定した内殻電子励起スペクトルである.このスペクトルは, 1s軌道から非占有状態への電子遷移の測定であり,伝導帯DOS分布を見ていることに対応する.電子励起の選択則を考慮すれば,測定したDOS分布は波動関数のp成分に対応する(p対称性部分状態密度分布). 2つのスペクトルは,ともに285 eV付近にピーク強度が観測されず,π*軌道が存在していないことがわかる.よって測定領域ではsp 2混成軌道で形成されるグラファイト相やアモルファスカーボン相がほとんど存在していないことが確認できる. h-DIAとc-DIAのスペクトルを比較すると, 290~300 eV付近の強度分布に明確な違いがあることが確認できる. c-DIAのスペクトルで観測できる289.0 eVのシャープなピーク構造は内殻軌道に生じた正孔と伝導帯へ励起された電子の間で働く引力,いわゆるコアホール効果によって生じるエキシトンピークに対応する. K殻励起スペクトルの290~300 eVの強度分布は大きく異なるのに対し, 300~330 eVの強度分布(EXAFSに対応)は似た構造を示していることがわかる. h-DIAとc-DIAの構造は第一,第二近接原子までの原子間距離はほぼ等しい.そのため似たような強度分布を示していると解釈できる.c-DIAのスペクトル強度立ち上がり位置は288 eVに観測されるが,実際の伝導帯バンドの底部はエキシトンピーク強度を取り除いた289.2 eVのエネルギー位置に対応する. h-DIAの強度立ち上がり位置は287.6 eVであり,c-DIAよりも1.6 eV低エネルギー側である. h-DIAとc-DIAの2つの結晶は, sp 3混成軌道からなり,ほとんど等極性の電子構造と考えられるため, 1s内殻軌道のエネルギー準位はほぼ等しいと考えられる.そのため,強度立ち上がりエネルギー位置はそのまま伝導帯バンドの底部のエネルギー位置関係を表していると考えられる.よっ306日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)