ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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概要

日本結晶学会誌Vol55No5

佐藤庸平,寺内正己,居波渉,吉朝朗子を分光するオメガフィルターは透過型電子顕微鏡JEM-2010FEFを用いている. EELSスペクトル強度分布の記録は,イメージングプレートを用いた.本研究では加速電圧を100 kVに設定し,直径1.2 nm,プローブ電流量3 pAの電子プローブでEELSスペクトルの測定を行った.非弾性散乱電子の取り込み角は, Low-Loss・Core-Loss測定ともに13 mrad(0.32 A ?1)であった.EELS測定を行う前に,試料の構造をTEM像・電子回折図形を用いて調べた.本研究で測定した六方晶ダイヤモンドは,グラファイトを20分間1400℃・20 GPaの高温高圧状態にすることで合成された. 12) X線構造解析により,試料中にはグラファイト・立方晶ダイヤモンド・六方晶ダイヤモンドがほぼ1:1:1で存在していることが明らかになっている.また六方晶ダイヤモンドの結晶粒の大きさは,回折ピーク強度の幅より8~10 nm程度のナノ粒子の集まりであることが判明している.4.実験結果であると考えられる.このh-DIAの101 _ 0回折強度を用いて電子顕微鏡像を結像したものが,図3cの暗視野像である.白いコントラストの結晶粒がh-DIAの結晶粒に対応する. EELS測定はこの結晶粒から行った(図3a中,黒点).図4はh-DIAの結晶粒から測定した価電子励起スペクトルである.比較のためc-DIAのスペクトルも同時に示す. 1 eV以下の強度の急激な低下は,エネルギーを失わずに透過してきた透過電子と弾性散乱電子によるゼロロスピークの裾野強度である. 34 eVに見られるピークは価電子全体の集団振動に起因したプラズモンピークである. h-DIAのプラズモンエネルギーはc-DIAと等しい位置に観測された.プラズモン共鳴エネルギーE PはEP= hω= hP24πNemと表される.ここでωPはプラズモン共鳴振動数, Nは価電子密度, eは素電荷, mは電子の有効質量を表す. h-DIAの価電子電荷密度は, X線構造解析による格子定数11)を用図3は六方晶ダイヤモンド(h-DIA)試料の(a)明視野像,(b)電子回折図形と(c)暗視野像である.電子顕微鏡像と電子回折図形から,試料は結晶粒の集合体であることがわかる.電子回折図形を見ると,透過スポットから0.3A ?1の位置にグラファイトの0002(図中g)に対応する回折強度が観測できる.それと同じ方位0.48 A ?1の位置に電子回折強度(図中h)を観測することができる.この回折強度はh-DIAの101 _ 0スポットに対応する.高温高圧圧縮によるグラファイトからh-DIAへの転移プロセスがX線精密構造解析により解明されている. 12),13)それによると,高圧圧縮により,グラファイト層間に炭素原子同士の共有結合が現れると,グラファイトの[0001]方向に対して,h-DIAは[101 _ 0]の向きで結晶が形成される.図3bの電子回折図形は, X線構造解析の結果と一致している.その他の電子回折スポット(図中矢印)は000スポットからおおよそ0.52 A ?1の位置に現れており,立方晶ダイヤモンド(c-DIA)の111スポット,またはh-DIAの0002スポット図4h-DIAとc-DIAの価電子励起スペクトル.(Valenceelectron excitation spectra of h-DIA and c-DIA.)図3六方晶ダイヤ試料の(a)明視野像,(b)電子回折図形,(c)暗視野像.((a)Bright field image,(b)diffractionpattern,(c)dark field image of h-DIA specimen.)(c)の暗視野像は電子回折強度hを用いて結像した.304日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)