ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

日本結晶学会誌55,302-307(2013)最近の研究から高分解能EELSによる六方晶ダイヤモンド粒子の誘電特性東北大学多元物質科学研究所佐藤庸平,寺内正己静岡大学大学院工学研究科機械工学専攻居波渉熊本大学大学院自然科学研究科吉朝朗Yohei SATO, Masami TERAUCHI, Wataru INAMI and Akira YOSHIASA: High Energy-Resolution Electron Energy-Loss Spectroscopy Study of the Dielectric Property ofHexagonal Diamond NanoparticlesElectronic structure of hexagonal diamond(h-DIA)was investigated by using high energyresolutionelectron energy-loss spectroscopy(EELS)based on transmission electron microscopy.The dielectric function of h-DIA was derived by Kramers-Kronig analysis of the EELS spectrum.Core electron excitation spectrum of h-DIA revealed density of states in conduction band,which was different distribution from that of cubic diamond. The electronic structure ofh-DIA was experimentally revealed for the first time.1.研究背景六方晶ダイヤモンド(h-DIA)は, 1966年にグラファイトを高温状態で静圧法1)や衝撃圧縮法2)により合成されることが報告された. 1967年に同じ結晶相が隕石中に存在していることが発見され, 3) h-DIAの合成に隕石衝突時の衝撃がかかわっていると考えられている.そのため,h-DIA合成の条件を再現することで,隕石がどのような環境を経てきたか予想することができ,天文・地球科学の分野で重要な知見を与えている.物性物理の観点からは,このh-DIAがどのような性質であるのか,立方晶ダイヤモンド(c-DIA)とどのような違いがあるのか調べることは興味深い. h-DIAの構造は,炭素原子だけで構成されたウルツァイト構造と考えることができる(図1).一般的に,ウルツァイト構造は2種類の構成元素の電気陰性度に差があると,比較的安定に存在できる傾向にある4)が,六方晶ダイヤモンドは1種類の炭素原子だけで構成されているため,その構造は不安定であると考えられる.理論計算においても, h-DIAはc-DIAに比べ,構造エネルギーが大きいことが報告されている. 5)実際に合成されたh-DIAは,常温常圧の環境下では数ナノ~数十ナノメートル程度の結晶粒のものがほとんどであり,不純物相(立方晶ダイヤモンド・グラファイト・アモルファスカーボン)が多く含まれているため,物性の実験的解明が困難であった.一方,理論的な物性の研究が報告されている. Panら6)は第一原理計算により, h-DIAの硬度がc-DIAに比べ58%高くなることを報告している. h-DIAのバンド構造が理論的に予測され, 7),8) c-DIAのバンドギャップよりも狭くなることや,電子構造が異なることが予測されている.h-DIAの電子構造を実験的に明らかにするためには,局所領域の測定を行う必要がある.透過型電子顕微鏡(TEM)は局所領域の構造を調べることに有用であるが,電子エネルギー損失分光(Electron Energy-Loss Spectroscopy:EELS)法と組み合わせることで,物質の誘電的性質・電子構造をナノスケール領域から調べることを可能にする.図1 h-DIAとc-DIAの結晶構造.(Crystal structures ofh-DIA and c-DIA.)302日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)