ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

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概要

日本結晶学会誌Vol55No5

清水荘雄,谷口博基,谷山智康,伊藤満図8STO(110)上のBTO薄膜の強誘電体相転移における格子変形.(Lattice deformation in BTO film on STO(110)caused by ferroelectric phase transition.)カーブの半値全幅は,室温においては0.7°程度であるのが, 400 Kから減少し始め, 550 K以上ではほぼ一定の値となっている.この温度は,格子定数の変化から見積もられる相転移温度と一致しており,強誘電相転移に伴ってロッキングカーブの半値全幅増大が起きていると言える.つまり,図8に示すように,常誘電体相においてはBTO薄膜の(110)pC面とSTO基板の(110)面の法線方向が一致しているのに対して,強誘電相転移において,相転移による歪を解放するために,ドメイン形成および格子の傾きが起こっていると考えられる.ここで,再びGuiらによる第一原理計算の結果との比較をしてみよう.二次元的な圧縮歪みの場合,相転移温度は歪の大きさに依存せず,バルクの値から変化しないことが報告されている. 11)それに対して本研究における(110)基板上のBTO薄膜の相転移温度である550 Kは,バルクBTOの相転移温度である406 Kに比較すると十分に高い.このように[11 _ 0]pC軸方向と[100]軸方向の緩和の異方性,つまり基板から受ける単軸性の応力が強誘電相転移にも大きく影響している.最後に,この単軸性の応力と二次元的な応力下の薄膜における相転移の比較を行うために,(100)STO上および(110)STO上のBTO薄膜における結晶構造の温度変化における差異について述べたい.図9には,常誘電相における熱膨張から外挿した面間隔, d PとXRD測定から見積もった面間隔d obsとし,強誘電相転移に伴う変化率,d obs/d P ?1の温度依存性を示している.室温の強誘電相においては,(001)STO基板上のBTO薄膜,(110)上のBTO薄膜のどちらに対しても面間隔の変化率d obs/d P?1は室温で0.2%程度である.一方,バルクBTOでは室温における(100)面,(110)面の面間隔の変化率がそれぞれ0.7%,0.25%程度であり,(110)STO基板上の薄膜と同程度の変化を示すのに対して,(100)STO基板上のBTO薄膜はバルクに比べて変化が小さくなっている.この基板の面方位による変化率の違いは,基板の拘束の状態の違いに起因すると考えられる.つまり,(001)STO基板上のBTOでは,強い二次元的な拘束を基板から受けるために自由変形が阻害されるのに対して,(110)基板上のBTOにおいてはほとんど一次元的な拘束を受け,それと垂直方向では自由変形が許されているのではないかと考えることができる.図9(100)および(110)STO基板上のBTO薄膜における強誘電相転移に伴う面直面間隔の変化.(deviationin out-of-plane lattice spacing accompanied withferroelectric phase transition in BTO thin film on(100)and(110)STO substrates.)挿入図は(c)(100)および(d)(110)STO基板上のBTO薄膜にお面直面間隔の温度依存性.この基板の面方位による拘束状態の違いは,常誘電体相における熱膨張率にもみられる.(001)面上におけるBTO薄膜の場合,常誘電体相における熱膨張率は0.6×10 ?5 K ?1程度の値となっており,この値はバルクの立方晶相における熱膨張率である1.2×10 ?5 K ?1に対して1/2程度の値である.それに対して, STO(110)面上のBTO薄膜における熱膨張率は, 1.3×10 ?5 K ?1であり,バルクとほぼ同程度の大きさである.つまり,一次元的な基板拘束が働く(110)配向のBTOエピタキシャル薄膜においては,面内等方的な基板拘束を受ける(100)配向のBTO薄膜よりも,自由変形が許されていることを裏付けている.このような基板の拘束力の面方位依存性が, STO(001)と(110)上のBTO薄膜におけるTcの変化の様子に影響を与えていると考えられる.294日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)