ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

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概要

日本結晶学会誌Vol55No5

清水荘雄,谷口博基,谷山智康,伊藤満図5STO(110)上のBTO薄膜に対する圧電応答顕微鏡測定イメージ.(PFM image of BTO thin film onSTO(110)substrate.)(a)分極処理後の面直圧電応答位相像(b)[11 _ 0]pCおよび[001]pC方向に対する面内圧電応答位相像.向の(110)pCの面間隔とほぼ等しい.これらの結果は,[001]pC軸方向にSTO基板から受ける拘束が,[11 _ 0]pC軸方向よりも強いことを示唆しており,強い一軸性歪みのもとで結晶が成長していることがわかる。強誘電体の分極方向を調査することは,強誘電相の対称性を決定する上で有用である.圧電応答顕微鏡(PFM)は,特殊な試料加工などを必要とせずドメイン構造の観察を行うことができることから,分極方向の決定手段として広く使用されている. PFMは走査プローブ顕微鏡の一種であり,カンチレバーから交流電界を印加しながら走査を行う.このとき圧電応答の信号を二次元画像として取り込むことによって,自発分極の方向を可視化することができる.図5aは分極処理後の面直方向のPFM位相像である.分極の反転による明瞭なコントラストが現れており,面直方向に分極軸が生じていることが確認される.分極処理は初めに-2 Vの電圧を2.5×2.5μm 2の領域に印加し,その後+2 Vの電圧を1×1μm 2に印加した.ここで注意したいのは,分極未処理の外側の領域においても一様な圧電応答が存在していることである.これは分極未処理の状態においても,下部電極の存在によるセルフポーリング効果によって面直方向の分極が揃っていることを意味している.図5bには,面内[11 _ 0]pC軸に対するPFMの測定結果を示した.数百ナノメートルサイズの不規則なドメイン構造が明瞭にコントラストとして観測されている.図5cに示すように試料を90°回転させた場合においてはこのようなコントラストは観測されないため,分極の面内成分が,[11 _ 0]pC軸もしくは[1 _ 10]pC軸方向を向いていることがわかる.これらの結果は, BTO薄膜に,分極の面直成分と面内成分,つまり[110]pC方向と[11 _ 0]pCに平行な成分が存在することを示しており, BTOの分極軸が[01 _ 0]_ pCもしくは[1 00]pC方向であることを示している.これは,面内PFMで観測されるドメイン構造が90°ドメイン構造であることを意味する.BTO薄膜の分極軸が[01 _ 0]_ pCもしくは[1 00]pC方向であるとすると,これらの軸が結晶学的な主軸に対応する.ここでBTOの[110]pC方向が, STOの基板の[110]pC方向と一致しており, BTO格子はSTO基板に対して傾いてい図6バルクBTOにおける正方晶構造とSTO(110)上の擬正方晶構造の比較.(Comparison of tetragonalstructure in bulk BTO and pseudo tetragonal structurein BTO film on(110)STO.)(a)バルクBTOの正方晶構造および(b)BTO薄膜の擬正方晶構造および逆格子点の模式図.ないと仮定する(図6a).このような場合,各ドメインからの(400)pCブラッグ反射は同じq yの値をもち,さらに異なるq zの値をもっているため,図に示すようにq z方向に2つの反射が起こる.また,ピークの重なりが大きく1つのピークとして観測される場合においても,同一のq yの値をもつことからq z方向に広がったピークが観測されると考えられる.これに対して本研究のBTO薄膜における(400)pCブラッグ反射は,図4bに示すように明らかにq z方向よりもq y方向に広がったピークを示している.このような(400)pC反射のq y方向に対するブロード化は図6bに示すようにBTO薄膜の(110)pC面がSTOの(110)面に対して傾いていると仮定することにより説明できる.この図で示したq y方向に広がったピークは本研究における実験結果と定性的によく一致しており, BTO薄膜が擬正方晶構造を有することが示唆される.この擬正方晶構造は,(1)格子定数(3.971 A)をもつ短い非分極軸,(2)(1)の軸よりも大きな格子定数をもつ分極軸,(3)分極軸とほぼ同程度の格子定数をもつ非分極軸の3つの軸から構成される.ここで(1)の軸は[001]pC軸に対応し,(2),(3)の軸は[100]pCもしくは[010]軸に対応している.(2),(3)の軸に対する正確な格子定数は,(400)pC反射のピークが強く重なっているため算出することができない.重なったピークの最大位置から2つの軸の格子定数の平均値を4.036 Aと見積もった.このように2つの長い結晶軸と1つの短い結晶軸をもつ結晶相とし292日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)