ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

日本結晶学会誌55,290-295(2013)最近の研究からSrTiO 3(110)基板上に成長させたBaTiO 3薄膜における特異な構造東京工業大学応用セラミックス研究所清水荘雄,谷口博基,谷山智康,伊藤満Takao SHIMIZU, Hiroki TANIGUCHI, Tomoyasu TANIYAMA and Mitsuru ITOH:Unconventional Structure in BaTiO 3 Thin Film Grown on(110)SrTiO 3 SubstrateAn unconventional pseudo-tetragonal crystal structure is found in a BaTiO 3 epitaxial thinfilm grown on a(110)SrTiO 3 substrate. The unique crystal structure of the BaTiO 3 film,which is markedly different from the bulk tetragonal structure, is caused by the nearly uniaxialstrain due to the different strain relaxation along[001]and[11 _ 0]axes.1.はじめにペロブスカイト型酸化物は化学式ABO 3で表される代表的な複合酸化物の物質群である.ペロブスカイト型酸化物は,多彩な物性を示すことが知られており,特に高温超伝導体の発見以来,物質科学研究で大きな役割を果してきた.近年では,バルク形態での新物質探索のみならず,薄膜ならではの新規物性探索も盛んに行われており,銅酸化物超伝導体転移点の上昇や,コバルト酸化物における強磁性の発現,マンガン酸化物における新規秩序状態の発見などが報告されている. 1)-3)ペロブスカイト型酸化物の中でも,現在最も応用研究が進展している物質は強誘電体酸化物であろう.強誘電体材料は,その物性が結晶構造やドメイン構造と大きく密接しているうえ,これらの構造が機械的な境界条件によって大きく変化することから,薄膜形態における新現象発掘の格好の舞台を提供している. BaTiO 3(BTO)は最初に強誘電性が見出されたペロブスカイト型酸化物であり,その高い誘電率から,セラミックス積層コンデンサの主材料として用いられている. BTOの高温常誘電相は,空間群Pm3 _ mをもつ立方晶ぺロブスカイト構造であるが,温度の低下に伴って, 406 K, 278 K, 183 Kでそれぞれ正方晶〔P4mm〕,斜方晶〔Amm2〕,菱面体相〔R3m〕へと相転移する. 4)この3つの低対称相は,すべての相において強誘電性を示し,反転可能な自発分極を有している.正方晶相では,立方晶相の6つの等価な<100>方向のうち1つの方向に自発分極が生じるのに対して,斜方晶相では<110>方向に,菱面体相においては<111>方向に生じている(図1).BTO薄膜においても, Pertsevらによる温度-二次元歪みに対する相図が提唱されて以来, 5) SrTiO 3(STO),DyScO 3, GdScO 3上に成膜を行ったBTO薄膜のT Cが上昇することが報告されている. 6),7)しかしながら,これらの市販されているペロブスカイト型酸化物単結晶基板はBTOよりも格子定数が小さいため,エピタキシャル成長による歪み効果は圧縮応力に限られる.そのため,一般的に基板面直方向に分極をもつ正方晶構造が強く安定化されてしまう.それでは,どのようにすればほかの対称性をもつ結晶構造を安定的に得ることができるのだろうか?一般に基板との格子定数の差によって導入されるエピタキシャル歪みは,膜厚増加に伴い転位が導入されることで緩和することが知られている.ここで,薄膜成長を行う結晶面の対称性に着目してみよう.ペロブスカイト型酸化物薄膜においては,基板から受けるエピタキシャル歪みの緩和過程に顕著な面方位依存性が存在することが知られており,過去の報告によりSTO(100)面上のエピタキシャル薄膜よりもSTO(111)面上に成長させた薄膜において,図1バルクBTOの逐次相転移に伴う格子定数の温度変化.(Temperature dependence of lattice parameters of BTOaccompanied with successive phase transitions.)290日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)