ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

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概要

日本結晶学会誌Vol55No5

丹治裕美,大戸梅治,清水敏之図7TLR8の2量体における再編成.(Structural reorganizationof TLR8.)不活性化型構造(左),活性化型構造(右). 2量体の再構成は,灰色の矢印で示した回転運動およびヒンジ運動によって起こる.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.図6TLR8のリガンド認識機構.(TLR8 ligand recognitionmechanism.)それぞれCL097(A), CL075(B),R848(C)とTLR8の相互作用部位の詳細.は53 Aから約30 Aまで接近していた. C末端同士が接近することで,生体内では細胞内のTIRドメインが2量体化を起こし,細胞内にシグナルを伝えると考えられる.メチル基(R848, CL097)は, Phe346, Tyr348, Val378,Phe405, Val573*などが作る疎水性ポケットに突き刺さる形で結合していた(図3A, B, C).これらの相互作用は,構造解析した3種類のリガンドで共通していた. TLR8のアラニン変異体を用いたNF-κBリポータージーンアッセイの結果により,結晶構造で明らかになったリガンド結合に関与する残基(Tyr348, Phe405, Val520, Asp543, Thr574)の重要性が裏付けられた.興味深いことに,一本鎖RNAをリガンドとした場合にも低分子化合物をリガンドとした場合の結果とおおむね一致したことから,一本鎖RNAと低分子リガンドは, TLR8への結合部位を共有する可能性が示唆された.3.4リガンド結合による2量体の再構成リガンド結合に伴い, TLR8の2量体は再構成されていた.この2量体の再構成は, 2つのプロトマーの回転運動およびヒンジ運動により表現される(図7).リガンド非結合型では, 2量体構造は主にLRR8とLRR18*およびLRR11?13とLRR14*?15*の間の相互作用で安定化されていた.一方で,リガンド結合型ではそれらの相互作用は再構成され, LRR8はLRR18*?20*と, LRR11?13はLRR17*?18*と相互作用していた. 2量体の再構成に伴い,TLR8の2量体界面は大きく変化していた.例えば, Phe405は,リガンド非結合型ではPhe494*とスタッキング相互作用を形成していたが,リガンド結合型ではリガンドのベンゼン環とスタッキング相互作用を形成していた.また,リガンド結合によってLRR5とLRR20*は新たに相互作用を生じていた.リガンド結合による2量体の再構成によって, 3.2で述べたように2量体のC末端同士の距離4.おわりに今回の結果により, TLR8はリガンド非結合型ですでに2量体として存在しており,リガンド結合によって2量体の再構成が引き起こされ細胞外ドメインのC末端同士が接近することが明らかになった.これまでは, TLRはリガンド非結合型では単量体であり,リガンド結合によって2量体化することでシグナルを伝えると考えられてきた. 2)しかし今回の結果から, TLR8の2量体の再構成によるシグナル伝達機構が構造科学的に実証された.この結果は生物学的に意義深いものだといえよう.さらに, TLR8の詳細なリガンド認識機構が明らかになった. TLR8は2量体の界面の2か所でリガンド認識を行っており,リガンドとはスタッキング相互作用,水素結合,疎水性相互作用を形成していた. TLR8のリガンド認識機構が原子レベルで明らかになり, TLR8をターゲットとした薬剤の設計および評価が可能になると考えられる.また,リポータージーンアッセイの結果から,リガンド認識機構は一本鎖RNAの場合も一部共通していると考えられる.ただし,その結果は細部において違いが認められ,一本鎖RNAとTLR8の複合体の構造解析は今後必須であろう.謝辞本研究は,東京大学医科学研究所三宅健介教授および柴田琢磨特任助教との共同研究である.また,回折強度データ収集にあたり, SPring-8とPhoton Factoryのスタッフの方々にご協力いただいた.この場を借りてお礼申し上げます.288日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)