ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

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概要

日本結晶学会誌Vol55No5

丹治裕美,大戸梅治,清水敏之は最小であることから, TLR7/8をターゲットとした治療薬として有望視されており,実際に抗ウィルス薬やがんの治療薬として臨床応用されているものもある.しかしこれまでTLR7/8の三次元構造および活性化機構がわかっていなかったため,薬物設計の指針を立てることが困難であった.今回筆者らは, TLR8によるリガンド認識機構およびシグナル伝達機構を解明することを目指し,リガンド非結合型および合成低分子リガンド結合型TLR8細胞外ドメイン全長のX線結晶構造解析を行った.2.TLR8の発現および結晶化TLR8の細胞外ドメインは約800残基であり, LRR1?26から構成されている(図3A). LRR14とTLR15の間には,40残基程度のループ(アミノ酸残基442 ? 481,以下ではZ-loopと呼ぶ)が挿入されている.今回はヒトTLR8細胞外ドメイン全長のC末端にプロテインAタグをつけ,ショウジョウバエS2細胞を用いて分泌発現させた.ヒトTLR8には21か所の糖鎖結合可能部位が存在しており,糖鎖が結晶化を妨げることが考えられた.そのため糖鎖生合成阻害剤キフネンシン存在下で培養を行い, Endo Hf感受性の糖鎖が付加されたTLR8を発現させた. IgGアフィニティークロマトグラフィーののち, Endo Hfによる糖鎖短縮とトロンビンによるプロテインAタグの切断を行った.次にゲルろ過クロマトグラフィーおよび陰イオン交換クロマトグラフィーで精製して結晶化サンプルを得た.TLR8は発現時にすでにZ-loopで切断を受けていることがSDS-PAGEおよびN末分析からわかったが, N末端側とC末端側断片に対応する2本のポリペプチド鎖は精製中に乖離することはなく互いに強固に結合していることが想像された. TLR7およびTLR9ではZ-loopの切断がリガンド依存的な活性化に必須であるという報告があり, 13),14) TLR8でも同様であると考えられた.X線小角散乱およびゲルろ過クロマトグラフィーから,TLR8はリガンド非存在下および存在下ともに溶液中で2量体であることが確認された. TLR8およびTLR9はリガンド非存在下でもすでに2量体であることが報告されており, 15),16)前述の結果はこれまでの報告と対応するものだった.一方で, X線小角散乱の散乱曲線はリガンド依存的に変化していた.これらの結果から, TLR8はリガンド非結合型および結合型とも溶液中で2量体であり,その構造はリガンド依存的に変化すると考えられた.精製試料を用い,蒸気拡散法でリガンド非結合型および結合型TLR8の結晶化を行った.イミダゾキノリン系低分子化合物のR848, CL097, CL075の3種類をリガンドとして用いた(図2). TLR8の濃度は8~10 mg/mLとし,リガンドはTLR8の5倍量を加えて結晶化を行った.その結果,リガンド非結合型TLR8の結晶が1種類,リガンド結合型TLR8の結晶が5種類得られた.すでに構造が解かれていたTLRはいずれもアミノ酸配列の一致度が20%以下と相同性が低く,分子置換法による解は見つからなかった.そこで, TLR8/R848複合体の結晶についてK 2PtCl 4誘導体およびCsCl誘導体を作成し,重原子同型置換法で位相決定を行った.得られた構造をモデルとして用いて分子置換法でほかの構造を決定し,最終的にリガンド非結合型TLR8について分解能2.3 A,リガンド結合型TLR8について分解能2.0~2.7 Aで構造を精密化した.3.TLR8の結晶構造図3(A)ヒトTLR8細胞外ドメインの模式図.(Extracellulardomain of human TLR8.)各ブロックは1つのLRR単位(LRR1?26)を表している.曲線はループを表し,点線は構造中で見えなかった部分を表している.(B)TLR8の単量体構造.(TLR8 monomer structure.)CL097との複合体の構造を示す. N末端側を緑色,C末端側を黄色で表している.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.3.1 TLR8の単量体構造TLR8の単量体はN末端からC末端までの26個のLRRが連なったリング型の構造だった(図3B).一般的にLRRモチーフは隣り合うLRR単位が連なった馬蹄形構造を取ることが知られており,その凹面において平行βシート構造を,凸面においてαヘリックス構造またはループ間相互作用を形成する. TLR8の場合もLRRによる連続した平行βシート構造が見られ,典型的なLRR構造を取っていた.その一方で, N末端とC末端が直接相互作用しており, TLRファミリーにおいて初めてリング型構造が観察された. TLR8はZ-loopで切断されているにもかかわらず,その前後のLRR14とLRR15はほかのLRRと同様に平行βシート構造を形成していた. LRR13とLRR15はリング型構造の凸面で相互作用しており,そのためLRR14の一部とZ-loopはLRR構造中から押し出されていた. LRR14のループ部分およびZ-loopのN末端側(アミノ酸残基286日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)