ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

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概要

日本結晶学会誌Vol55No5

岡研吾,東正樹,森茂生図8室温における擬立方晶単位格子中での分極方向の組成依存性.(A schematic illustration of thepolarization vectors in the pseudo-cubic unit cell.)を見積もるモデルである.このモデルで見積もられた分極の大きさは117μC/cm 2であった.これはPZTの単斜晶相PbZr 0.52Ti 0.48O 3(20 K)の構造パラメーターから計算された値(54μC/cm 2)の約2倍の大きさであり,母物質であるBiCoO 3について計算された120μC/cm 2に匹敵する. 2),3)この計算結果は,単斜晶相が正方晶相から連続的に変化した結晶構造であることを反映している.また,分極の方向も同様に見積もることが可能である.単斜晶相中では,正方晶の分極方向である[001]c方向から,菱面体晶相の分極方向である[111]c方向へと傾いている. x=0.70の傾きの大きさは13°と見積もられた.巨大なc軸方向の歪みにより,単斜晶相PZTで見積もられた傾き24°と比べて小さい.ここで,正方晶相から単斜晶相への二次的な構造変化の間における分極方向の組成変化を調べるため, x=0.63, 0.72についても計算を行った.見積もられた分極の大きさはそれぞれ121μC/cm(x 2=0.63), 117μC/cm(x 2=0.72)であり,傾きは, ?1°(x=0.63), 17°(x=0.72)であった.この単斜晶相中での分極方向の組成変化を図8に図示する. Feの置換量が増えるにつれ,分極方向は[111]cへと連続的に変化,つまり回転していることがわかる.これは高い圧電特性の起源とされた分極回転が,組成変化によって起こっていることを初めて実験的に確かめた成果である.3.3.2温度による分極回転BiCo 1?xFe xO 3単斜晶相はPZTと同様に,高温で正方晶相へと構造相転移する. 26)昇温によって引き起こされる構造相転移においても,組成変化の場合と同様に,分極方向が回転することが期待できる.図9aにx=0.70の放射光X線回折パターンの温度変化を示す.加熱するにつれて単斜晶相の111, ?111反射が徐々に1本の正方晶の101反射へと収束しており, 673 Kの高温で完全に正方晶相になっている.図9bに示す単斜晶相の格子パラメーターも温度に対して連続的に変化しており,組成変化の場合と同様,正方晶相と単斜晶相の構造相転移は二次的である.各温度における回折パターンをリートベルト解析し,精密化した構造パラメーターから点電荷モデルで分極の温度変化を計算した.見積もられた電気分極の温度変化を図9cに図示図9(a)BiCo 0.30Fe 0.70O 3の放射光X線回折パターン温度変化(λ=0.4229 A).(b)BiCo 0.30Fe 0.70O 3単斜晶相の格子パラメーター温度変化.(c)擬立方晶単位格子中での分極方向温度変化.((a)Synchrotron XRDpatterns of BiCo 0.30Fe 0.70O 3 at elevated temperatures(λ=0.4229 A).(b)The temperature dependence ofthe lattice parameters of monoclinic BiCo 0.30Fe 0.70O 3.(c)A schematic illustration of the temperaturedependence of the polarization vector.)する.[001]c方向から[111]c方向への傾きは13°(300 K),6°(373 K), 2°(423 K), 0°(673 K)と減少しており,温度によっても分極回転が起こることが明らかとなった.電場中での構造解析を行うのは困難であるものの,温度という外場によって分極の連続的な変化が起こったことを実験的に観測したことは, PZTにおける巨大圧電応答のメカニズムとして提案された分極回転を,強く支持する結果である.4.おわりに圧電セラミックスにおける巨大圧電特性の起源を明らかにすることは,新しい圧電材料を探索するうえで非常に重要である. PZTのMPBにおいて単斜晶相が発見されたことで,分極回転モデルによる高い圧電性の説明がなされたが,実験的な実証はなされていなかった.その中で,ビスマスをベースとしたセラミックスで, PZTの単斜晶相と同様の結晶構造を発見し,さらに分極の回転が組成および温度の関数で起こることを実験的に観測したことは,圧電セラミックスの機構解明および今後の物質探索において282日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)