ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

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概要

日本結晶学会誌Vol55No5

岡研吾,東正樹,森茂生憂慮されている.実際,ヨーロッパではRoHS指令により鉛の使用が規制されているが,鉛を含む圧電体を代替しうる材料は存在しないため,例外的に使用が許可されているのが現状である.一方,ビスマスは周期律表で鉛の隣に位置し, Bi 3+はPb 2+と同じ電子配置であるが,無害である. Pb 2+と同様に,Bi 3+のもつ6S 2孤立電子対によっても,歪んだ構造は安定化される.そこで,ビスマスを含む酸化物にもPZT同様の単斜晶相が存在し,分極回転が起これば,環境問題を解決できる非鉛圧電体となると期待できる.3.1.2 BiCoO 3-BiFeO 3固溶系本研究ではビスマスを含むペロブスカイト酸化物の圧電体候補物質として, BiCoO 3とBiFeO 3の固溶系に着目した. BiCoO 3は高圧合成法を用いて合成されるペロブスカイト酸化物である. 22) PZTの母物質PbTiO 3と同様の結晶構造(空間群:P4mm)であるが,正方晶の歪みの指標であるc軸長とa軸長の比はc/a=1.27とPbTiO 3のc/a=1.06を凌駕する.この巨大な正方晶歪みはCo 3+のもつd電子(3d 6)が高スピン配置をとることにより安定化されている. 23),24)一方のBiFeO 3は,強誘電性と反強磁性が同時に存在するマルチフェロイック物質として精力的に研究されている物質である. 25)結晶構造は菱面体晶(空間図3BiCo 1?xFe xO 3の室温放射光X線回折パターン(λ=0.42 A).(Synchrotron X-ray diffraction patternsfor BiCo 1?xFe xO 3 at room temperature.)x=0, 0.7,1.0の指数はそれぞれ正方晶,単斜晶,菱面体晶相の単位格子で付けている.群:R3c)であり, PZTの菱面体晶相と同様に分極は[111]c方向を向いている.つまり, BiCo 1?xFe xO 3は, PZT同様の正方晶と菱面体晶ペロブスカイトの固溶系である.3.2 BiCo 1?xFe xO 3におけるMPB3.2.1 MPBにおける単斜晶相の発見BiCo 1?xFe xO 3のMPBの存在を確かめるため, x=0から1までの組成の試料を合成し, SPring-8 BL02B2ビームラインで放射光X線回折実験を行った.単色化された高輝度・高強度の放射光を用いるため,短時間で高分解能な回折パターンを得ることが可能である.よって,限られたマシンタイム中で,温度や組成などの条件を細かく変化させた際の構造変化を調べることができる.一連の試料は高圧合成法を用いて, 4~6 GPa, 1000℃の条件で合成した.図3にBiCo 1?xFe xO 3の放射光X線回折パターンを示す. x=0.6まではBiCoO 3由来の正方晶の構造をとるが, x=0.8以上ではBiFeO 3由来の菱面体晶へと構造が変化する.その中間, x=0.7付近の組成において,√2a×√2a×aの単位格子をもつ単斜晶で指数付け可能な相が発見された. 26)電子線回折実験を行ったところ,図4に示す回折パターンより,予想どおりの√2a×√2a×aの単位格子および空間群Cmが確認された.すなわち,分極回転が起こると言われているPZTの単斜晶相と同じ結晶構造が, BiCo 1?xFe xO 3にも存在するのである.3.2.2 MPB近傍領域での結晶構造の組成依存性BiCo 1?xFe xO 3の単斜晶相の特性を明らかにするには,MPB付近の結晶構造の組成変化を詳細に調べることが不図4 BiCo 0.30Fe 0.70O 3の(a)[100],(b)[010],(c)[001],(d)[?110]入射電子線回折像(298 K).((a)[100],(b)[010],(c)[001], and(d)[?110]zone-axisselected-area electron diffraction patterns obtainedin BiCo 0.30Fe 0.70O 3 at 298 K.)擬立方晶ペロブスカイトの単位格子で指数付けしている.可欠である.そこで, x=0.60~0.72の範囲で組成を細かく変化させた試料を合成し,粉末X線回折パターンを測定した.その結果を図5に示す. x=0.60の組成では正方晶の構造であるが,置換量が増えるにつれ,正方晶相の101反射は単斜晶相の111, ?111反射へと連続的に分裂していった.格子定数とモノクリニック角βの組成依存性(図6)からも明らかであるように,正方晶相から単斜晶相への構造変化は二次的である.一方, x=0.70以上の組成では,菱面体晶相の反射が単斜晶相のものとは独立に出現していることから,単斜晶相から菱面体晶相への変化は一280日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)