ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

ページ
12/62

このページは 日本結晶学会誌Vol55No5 の電子ブックに掲載されている12ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol55No5

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol55No5

日本結晶学会誌55,278-284(2013)最近の研究からBiCo 1?x Fe x O 3の分極回転現象東京工業大学応用セラミックス研究所岡研吾,東正樹大阪府立大学大学院工学研究科マテリアル工学科森茂生Kengo OKA, Masaki AZUMA and Shigeo MORI: Polarization Rotation in BiCo 1?x Fe x O 3Polarization rotation is the key for interpretation of the piezoelectricity in Pb(Ti 1?x Zr x)O 3(PZT)and other piezoelectric ceramics. We found the monoclinic phase in BiCo 1?x Fe x O 3(x~0.7)that is isostructural with the low temperature phase of PZT at the morphotropic phaseboundary(MPB). Precise structural analysis by electron diffraction and powder synchrotronX-ray diffraction revealed that the monoclinic perovskite BiCo 1?x Fe x O 3 exhibits Cm symmetryand showed polarization rotation as functions of composition and temperature. The second orderstructural transition from tetragonal to monoclinic structures was accompanied by a rotation ofthe polarization vector from the[001]to[111]directions of a pseudo cubic cell.1.はじめに圧電体とは,加えられた力を電圧に変換する,あるいは電圧を力に変換する材料である.応力を加えると,それに比例した分極(表面電荷)が現れる現象を正圧電効果と呼び,逆に電界を印加すると圧電体自体が変形する現象を逆圧電効果と呼ぶ.正圧電効果は加速度センサーや発電床(人が歩いたり,物が移動したりする際に生じる圧力を利用する床型の発電機)などに,逆圧電効果はインクジェットプリンターのプリントヘッドやアクチュエーターなどに利用されている身近な材料である.圧電特性は電場による結晶中の分極方向の連続的な変化(分極回転)によるものであるとして説明された. 4),5)しかしながら, PZTで分極回転が実験的に観測された例はない.また, MPB付近の結晶構造自体,いまだに議論が交わされている.本稿では,このようなPZTの研究背景に触れつつ,同じ結晶構造である単斜晶BiCo 1?xFe xO 3において,初めて実験的に分極回転を観測した研究について紹介する. 6)PbTiO 3とPbZrO 3の固溶体であるPb(Ti 1?xZr x)O 3(PZT)1)などの,鉛を成分として含むペロブスカイト酸化物が,圧電特性の良さと化学的安定性から,広く利用されている.圧電効果は反転対称性をもたない(すなわち自発分極をもつ)結晶構造に付随して現れるが,鉛を含むペロブスカイトでは, Pb 2+のもつ6S 2孤立電子対の存在のために歪んだ構造が安定化されており,常誘電相への転移温度が室温に比べて高いため,高温まで良好な圧電性を保つという特長がある. PZTは,相図中においてPbTiO 3由来の正方晶相とPbZrO 3由来の菱面体晶相が接するx=0.5付近のモルフォトロピック相境界(MPB)で最も高い圧電性を示す(図1).長らくの間, MPB付近では正方晶相と菱面体晶相の二相が共存していると考えられてきた.そうした中, Nohedaらは2000年,放射光X線回折実験による構造解析結果から, x=0.50, 0.52のMPB組成において低温領域に単斜晶相が存在することを報告した. 2),3)図1に示すように,この単斜晶相は√2a×√2a×aの単位格子(aは擬立方晶ペロブスカイト単位格子のa軸)をもち,空間群はCmである.この単斜晶相の発見が鍵となり, PZTの高い図1Pb(Ti 1?xZr x)O 3の旧来の相図とMPB付近に存在するとされる3つの相の結晶構造.(The old phasediagram and illustrations of the crystal structuresof Pb(Ti 1?xZr x)O 3.)結晶構造の図は,左から正方晶(P4mm),単斜晶(Cm),菱面体晶(R3m).単斜晶相中の破線は擬立方晶の単位格子を示している.278日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)