ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

木原裕,新庄正路,松村義隆図8 SAXS-MDによるSrc SH3ドメインタンパク質フォールディング初期中間体の構造予測. 12)(Predictedstructure of the early intermediate on Src SH3 domainprotein folding, calculated by a SAXS-MD program.)(a)リボンモデル.(b)充填モデル.赤:酸素,黄:硫黄(メチオニン),水色:窒素,グレー:炭素,白:水素を表す.(c)実験散乱曲線と予測散乱曲線の比較.青:実験値,赤:予測した構造の散乱曲線.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.3.4 SH3ドメインタンパク質のフォールディング経路の多様性われわれは続いて,互いに相同のほかのSH3ドメインタンパク質についても同様の実験を試みた.これらの立体構造は,トポロジカルにまったく相同で,同じ立体構造といえるものである.しかしながら,フォールディングの経路は,驚くべきことに, Fyn SH3タンパク質では, 2相のフォールディング過程が観測された. 5),14)ただ2つの過程で得られる初期中間体のαヘリックスの含量の総和は,Src SH3タンパク質の場合と同じであった.またPI3K SH3タンパク質の場合には,一相であったが,初期中間体のαヘリックスとnative状態のαヘリックスの含量の差はFynSH3の場合の遅いフェイズのものとほぼ同じだった(このことは, PI3K SH3の場合,速いフェイズがもしあれば,ストップトフロー装置の不感時間内に終わってしまっている可能性もある.). 14)4.おわりに当初,低温下でフォールディングの最初にできる初期中間体の構造を求めること,β構造しか含まないタンパク質の場合のβ構造形成速度を求める目的で,出発したわれわれの研究であったが,測定した範囲で,どのタンパク質も最初に近距離力で形成されるαヘリックスを含む初期中間体を形成するという予想を超える結論に至った.温度ジャンプ法で得られていた結果は,αヘリックスの形成は速いができてもすぐ壊れてしまうという解釈がなされていたが,ここで示したようにたまたまできた2つのαヘリックス部分が相互作用して準安定化することにより,フォールディング初期中間体となることができる.たまたまできたαヘリックス同士が近くに来る確率に依存するという意味で,フォールディングの最初の過程は,拡散律速であるともいえる.したがって,どのタイプのタンパク質のフォールディングにおいてもαヘリックスの形成がフォールディングの核となり, molten globule状態を経てnativeな構造へとフォールドされるというのがフォールディングの道筋である.ただ,フォールディングの最初の過程が拡散律速であるとする点は,最初からフォールディングを触媒する可能性のあるヘムをもつタンパク質のシトクロムcなどでは異なってくることが予想される.ヘムによって触媒されるフォールディング形成は,ある条件下でのミオグロビンのフォールディングでも起こっている可能性がある.やり残している実験の1つである.文献1)P. A. Thompson, W. A. Eaton and J. Hofrichter: Biochemistry36, 9200 (1997).2)C. -Y. Huang, J. W. Klemke, Z. Getajun, W. F. DeGrado and F.Gai: J. Am Chem. Soc. 123, 9235 (2001).3)S. Williams, T. P. Causgrove, R. Bilmanshin, K. S. Fang, R. H.Callender, W. H. Woodruff and R. B. Dyer: Biochemistry 35,691 (1996).4)P. A. Thompson, V. Munoz, E. R. Henry, W. A. Eaton and J.Hofrichter: J. Phys. Chem. B. 104, 378 (2000).5)J. Li, M. Shinjo, Y. Matsumura, M. Morita, D. Baker, M.Ikeguchi and H. Kihara: Biochemistry 46, 5072 (2007).6)Z. Qin, J. Ervin, E. Larios, M. Gruebele and H. Kihara: J. Phys.Chem. B. 106, 13040 (2002).7)E. Larios, J. S. Li, K. Schulten, H. Kihara and M. Gruebele: J.Mol. Biol. 340, 115 (2004).8)M. Kataoka, Y. Hagihara, K. Mihara and Y. Goto: J. Mol. Biol.229, 591 (1993).9)K. Kuwajima, H. Yamaya, S. Miwa, S. Sugai and T. Nagamura:FEBS Lett. 221, 115 (1987).10)Y. Matsumura, M. Shinjo, A. Mahajan, M. D. Tsai and H.Kihara: Biochimie. 92, 1031 (2010).11)C. A. Rohl and R. L. Baldwin: Methods Enzymol. 295, 1 (1998).12)D. I. Svergun, M. V. Petoukhov and M. H. J. Koch: Biophys. J.80, 2946 (2001).13)M. Kojima, A. A. Timchenko, J. Higo, K. Ito, H. Kihara and K.Takahashi: J. Appl. Cryst. 37, 103 (2004).14)Y. Matsumura, M. Shinjo, S. J. Kim, N. Okishio, M. Gruebeleand H. Kihara: J. Phys. Chem. B 117, 4836 (2013).276日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)